「シラート」

 怖いと聞いたのでDolby Cinemaで観ました!(←は?)恐怖感バグってる私でしたが心臓に悪そうとは思った。

「シラート」オリベル・ラシェ(2025仏西合作)

Sirāt / Oliver Laxe

 なんとなーく筋は心得てたのだが、のっけから不穏で不安定で、頼りない感じがずっとつきまとっていた。絶えず聞かされる音のせいなのか映像そのもののせいなのか、それとも冒頭に流れる

「地獄と天国の狭間に『シラート』という橋がある。その道は髪の毛よりも細く剣よりも鋭いという」

のフレーズに頭が支配されたせいか。ロードムービーの体だがそうじゃなかった。

 以下、ネタバレ注意:

 レイヴというものを深く理解しているわけではない私だが、冒頭シーンのように皆が超巨大なスピーカーから流れる音に任せ、思い思いに身体を動かす光景は、全人類が古代からやってるであろう「神との交信」としての踊り、に見えた。ある意味「無垢」な時間と空間ではあるのだが、そこには普通に多数の生の肉体と生の感情が存在してるわけで、要するにいつ何が起こっても不思議ではない。私はつい某地の、戦争のきっかけとなった音楽祭を想起せずにはいられなかった。なので、いなくなった娘を息子と共に探しに来た父親、には初手から何でこんなとこに年端もいかない息子を連れてくんねんとちょっと怒りを感じた。父子はレイヴの場において明らかに異物であり「何かが起こる」ための触媒となるのだろうな、と予測しながらも。

 道行く三台の車は舗装された道路を外れ、あえて砂漠と岩山ばかりの荒れた道なき道を走る。危険が迫っているからとレイヴを中止させ観客たちを避難させた軍隊および他人のいそうなところを避けて通っているが、それはとりもなおさず「安全な場所」の外ということだ。誰もいない、足を踏み入れていない領域とはつまり酷く危険であり、いざという時に誰も守ってくれないし助けに来てくれないということである。安全より自由を選んだ一行がたどる運命はまさに「自由にはリスクと代償が伴う」を地で行く展開となる。

 とはいえストーリーらしきストーリーは無い。ただ「前に進む」それだけ。冒頭のフレーズが絶えずよぎる、さまざまな道。一行はそれなりに苦労して道なき道をいくのだが、これが奇妙に現実感がない。現実感がないのに、いつの間にかこの世界に入り込んでいる。登場人物の衝撃と驚きと痛みを、まるでそこにいるかのように「受けて」しまっている。もう一度観ても、同じ場面で同じように受けてしまう気がする。

 人によってかなり意見の分かれる映画だと思う。つまらない、何を言いたいのかわからない、という感想もそれはそれで正しい、ストーリーを語る映画ではないから。冒頭のフレーズの言葉の魔力が効くかどうか、で受け取り方が異なるのかもしれない。私は面白かった。

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