「文明交錯」
「HHhH」のローラン・ビネ氏の最新作。

「文明交錯」ローラン・ビネ(2023、訳 橘明美)
Civilizations / Laurent Binet((2019仏)
最初に叫んでおくがメチャクチャ面白かった!そしてかーなーり過激!な本だった。
一言でいうと
「インカ帝国が滅亡せずスペインを征服する」
という歴史改変小説なんだけれども、冒頭が北欧ヴァイキングから始まるのが痺れる。そっっっっっからスか!!伏線壮大すぎイ!!と呆れた。いや感動した。ジャレド・ダイアモンドのベストセラー「銃・病原菌・鉄」からヒントを得たというが、単なるファンタジーではなく「あるパーツを揃えればあり得たかもしれない展開」を、史実をベースとした組み換えにより緻密に構築していて、途轍もなく現実味がある。何より作者の豊富な知識と教養とあくなき創作意欲に打たれます。とにかく面白い、面白すぎる。歴史が好きな人ならばなおのこと、例えインカ帝国や西洋文明にさして詳しくなくても、出てくる人物は昔授業で聞いた覚えのある名前ばかりだし、起こる出来事も「あれがこうなるのか!」と驚きと感嘆の連続となること必至。
「過激」といったのは、この時代だと絶対に避けて通れない「キリスト教」の問題に真正面からガッツリ取り組んでるところ。歯に衣着せぬ物言いが切れ味良すぎて、いくらフィクションの体でも大丈夫なんかと心配になるくらいだ。まあでもアカデミー・フランセーズ小説大賞受賞してるから、西洋民にも少なからぬ喝采を受けたということ。作中でインカの人々とスペイン含む西洋民(特に宗教関係者たち)がお互いにお互いを「野蛮人」と呼ぶところがなんともおかしかったし、イングランドのヘンリー8世が速攻で太陽教に改宗するエピソードが最高すぎた。アン・ブーリンが首無し幽霊にならずに済む世界線よ?ワクワクするですやろ。
まず以てインカの王アタワルパの人物描写が魅力的。「王が弱き民を守る」というシンプルで真っ当な統治、賢く商売上手で宗教にも寛容、戦争にもめっぽう強い。面白くならないはずがない。これかなりのベストセラーになったのかな、覚えがあんまりないな、と思って調べてみたけど、私の探し方が悪いのだろうか。褒めちぎってるレビューが多いわりに出てこない。ちょっとお堅めでとっつきにくいタイトルのせい?(でもピッタリではある)。勿体ない。「HHhH」より格段に読みやすいのに!(「HHhH」が劣っているという意味ではない。あれは事実に如何に肉薄するかという試みなので全く方向性が違う)私は図書館で借りて読んだが、文庫化されたら買おうと思うくらいにはよく出来た本である。
余談だが、読み終わった後真っ先に思い出したのは「図書館の魔女」の高田大介さん。次いで京極夏彦さん。ビネさんと張れる日本人作家は今のところこの二人なんじゃなかろうか。などと根拠なく思ったりもしている。超おススメ。
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