「桜ほうさら」
多忙な中でも読める(というか読まずにいられない)宮部さん上下巻。2013年の作品。2014年にドラマにもなってるのね。主演が玉木宏!全然知らんかった。

「桜ほうさら」宮部みゆき(2013)※文庫版は2015
ちょうど今の大河が江戸時代、しかも本屋の話のせいか、より近い感じを以て読めた。年代は大河より百年ほど後、幕末といわれる年代の少し前。笙之介は訳アリの武士階級で、江戸に身を寄せ長屋に住み、表向き代筆業についている。蔦重が本作りとエンタメ盛り上げに奔走した時代から下って、種々多様な本が市井に出回り様々な層の人間がそれぞれに愉しむ様子がうかがえる。大河もこの小説どちらもキッチリ「時代」を描いているな、と今更に実感する。
話としては「謎解き」。形式として、中編くらいの長さにまとまった話が四つあり、「冤罪をかけられ割腹死を遂げた父の汚名を晴らすべく真相を探す」串が一本刺さってる。一見なんの関係もないことごとが一つまた一つと繋がって、ある時すっと一直線に真実に迫る展開のカタルシスはさすがの手腕。偶然と必然は区別が難しいというけれど、「たまたま」何の気なしに選んだ道がどこへ向かっていくかは、やっぱりその人の事情や思考形態によって決まるのよね。
笙之介のキャラがまたとても良い。侍としてのやっとうはからきしでも、いざ真実に向き合った時にぐらつかない・毀損されない自分を持っている。毒に塗れた世の中でも大事なものを失わずに生きていける。これもやはり武士の矜持というものなのかもしれないし、そうではなくてどんな人間にも元は備わっているはずの力なのかもしれない。
表向きは少し「名もなき毒」の杉村さんを思い出すキャラなのだが、全然違うんだな。笙之介は真にお人好しゆえに鈍感で、マジで何も気づかないんだけど、杉村さんは心の底で気づいてるのに気づいてない振りをするのが上手い。自分すら騙す。超鋭敏でメチャクチャ腹黒いのよね。私は今回、笙之介と並び比べて、やはり杉村さんは「そういう人」なんだと確信した。宮部さんのキャラ作り半端ないわ。面白かった。

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