おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

「ぼくとパパ、約束の週末」

2024年12月6日  2024年12月6日 

  これはTwitter(x)で見かけて気になっていた映画。先に観たFFさんにも背中を押されて、終わっちゃう前に!と慌てて観に行った。少しお安い曜日だったせいもあるかもしれないが平日にしてはお客多し。ここにきて伸びてる感ある。


「ぼくとパパ、約束の週末」マルク・ローテムント

Wochenendrebellen Marc Rothemund(2023独)


 まず思ったのが、タイトルが全く映画のイメージとそぐわない。いや確かにその通りっちゃそうなんだけどさ……原題の「週末の反逆者」の方がピッタリ。何でコッチにせんかったんや。

 主人公のジェイソン少年は幼いころに「自閉症」と診断される。公式サイトに載っていた児童精神科医の言によれば、現在精神科の現場で使われてる診断名は「ASD(自閉症スペクトラム障害)」だそうだ。Sの「スペクトラム」は「連続体」を意味し、同じ特徴を持っていても人それぞれ濃い薄いがあるとのこと。

 以下、ほんのりネタバレな箇所あるのでご注意を。




 観てて思ったのは、誰でもある感覚や能力の凸凹がその度合いにより「障害」と呼ばれるのであって「全く別物」というわけではない、ということ。ジェシーのやることなすこと決して「見たことも聞いたこともない酷い振舞い」ではないのよ、むしろよく知ってる感ある。赤ん坊の頃ならば皆「他人の気持ちがわからない」し「独自のこだわりを持つ」し「変化を嫌う」し「知覚過敏」でもあったりする。それが日々経験を積み、種々の知識を取り入れ、慣れたり折り合いをつけることを覚えることで周囲に調和できるようになる、概ね。だからこそ周囲の人々は「こんな大きいのにどうしてわからないの?」「親がなんとかしなさいよ」「躾しなさい!」と言ってしまう。ああーこういう視線と言葉、私は知ってるよよく。しんどい。

「慣れる」「折り合いをつける」=入ってくる情報をある程度遮断し取捨選択する、は脳に備わった機能ではあるが、その強弱は本人の努力や親の躾ではどうにもならない場合がある。他人とは抱えてる情報量も内容も違いすぎて、本人にはうまくいかない理由が理解できないし、まず探ることすらできない。自分じゃ解決不能だから親に「解決してよ!」と求めるしかできないのだ。映画中で、一番つらい思いをしてるのはこの子だ!と母親が叫ぶ場面があったが、まさに。

 それだからこそ、ジェシーがパパとの旅を通じて少しずつ「解決」の手がかりを掴んでいくところは響いた。パニックに陥る経緯を自身で言語化したところなんてもう、感動したなんてもんではない。ヘレン・ケラーの「ウォーター!」ばりの大躍進ですわ。「矛盾する命令を打ち込まれて、システムがクラッシュする」、脳内で起こっていることをイメージ化できればきっと制御も可能になる。大きな大きな一歩だよね。パパの嬉しそうな顔に胸がきゅっとなる。しかしだからといってこの先一気にとんとん拍子、とはいかない。とある不測の事態(複数)にパパも対応しきれず心の余裕を失い大失敗をやらかすーーー展開も素晴らしかった。

 それにしても推しチームを見つけるためにドイツ中のサッカーチームの試合を観て回る、というアイディアは斬新だし、それを本気で実行しちゃうパパも凄い。ジェシーを理解し、何くれとなくサポートしてくれる祖父母も。乳飲み子を抱えつつ日々奮闘していたママも勿論。実話ベースでなければ、荒唐無稽と却下されるかもしれない発想よね。結果、映画としても非常に絵面の良い、素敵なロードムービーとしての性格も持つに至った。実在するこの父子が未だに推しチームを探して回っているというのもいいよね。何だか嬉しくなる。きっと映画の内容以上に大変なことも多いと思うけど、この家族ならきっと乗り越えていくんだろうな。

 私は最後に懐かしいこのフレーズを思い出したよ。「愛は平和ではない、愛は戦いである」。漫画「愛と誠」の冒頭に出てたやつ。

愛は平和ではない
愛は戦いである
武器のかわりが
誠実(まこと)であるだけで
それは地上における
もっともはげしい きびしい
みずからをすてて
かからねばならない
戦いである――

わが子よ
このことを
覚えておきなさい
 (ネール元インド首相の
   娘への手紙)

 検索して今はじめて知ったけど、これって本当に首相の手紙かどうか、真偽は怪しいみたいね。でも仮に梶原一騎の創作だとしても、この文章が人に与えるパワーは本物。子育てはまさに戦いよね、親も子も。大変良い映画でした。

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