「死者は嘘をつかない」「近畿地方のある場所について」「業界怪談」
怖い本三連発(読んだ時期はバラバラ)。
「死者は嘘をつかない」スティーヴン・キング(2024)翻訳:土屋晃
Later Stephen King(2021)
「死者の声が聞こえる少年」という王道設定だけでもう勝ったも同然。原題の「Later」(=後になって)の通り、ゆっくりペースの前半から後半への切り替わりとドライブ感がすごい。とはいえ昔からのキングファンにはお馴染みの展開で、たぶん初見の人でもある程度先は読めてしまうのだが(語り手が主人公だからね!)それでも面白さはまったく毀損されない。少年の成長について・母子の愛について・小説について・アメリカという国の問題について・善と悪について、これまでキングが書いてきたことがもれなく盛り込まれコンパクトに(キングにしては)まとめられてる。ここまでくればもう職人技としかいいようがない。さすがです。
細かいエピソードがどれもこれも素晴らしいのでただただ読んでください!としか言えない。それにしても薬物怖い。薬物はホラーを呼ぶし接点になる。つかホラーそのものよね、現実世界においても。
「近畿地方のある場所について」背筋(2023)
モキュメンタリーというジャンルが映画やテレビ番組であるのは知ってたが、それを文字でやった感じ。カクヨムは企画に参加して以来放置していて(←)連載中は全然知らなかった。いや勿体ないことしたな、たぶんライブだと楽しい。せめて紙本で読めばよかった、とちょっと後悔。
昔々の「あなたの知らない世界」や漫画雑誌に載ってた怖い話、学校で言い伝えられた怪談、ラジオで聞いた怖い体験談、古の掲示板で夜中に「行ってみた」系の話、などなど婆なのですべて見覚えのある話で、懐かしさはあれど怖さは感じなかったものの、脈絡のない、真偽も怪しいヨタ話の体を崩さずよくぞここまでうまくまとめた(まとめた感も上手に消してる)なと感心した。ただ、電子書籍でキッチリ整えられてしまうと、正直このチープで歪んだ胡散臭さがかなり損なわれる気がする。手書きの変な絵の効果はなかなかなので、いっそテクスチャにも凝って、掲示板の部分はもっと掲示板っぽい見た目と動作にすればよかったんじゃないかな。まあ、大変か……今から読むなら断然紙本がいいと思います。
「業界怪談」NHK「業界怪談 中の人だけ知っている」制作班(2023)
TVで時々観てたやつ。これも一種のモキュメンタリーかな?再現映像だけじゃなく各業界関係者の座談会もあったのがよかった。ここで新たな怪談も飛び出したりして(そしてそっちの方が怖かったりして)全体で怖さを演出してたよね。
番組と同様、ストーリーと座談会二本立て。電子書籍で読んだが、スマホの小さい画面でもあまりストレスなかった。「語り」系はスマホ画面に向いてるのかもしれない。これほど電子機器が溢れかえって、個人が電気信号でやりとりする時代は今までになかった。あとがきにもあったが、土地の古い因縁はいつまでも消えないものだし、何なら昔は一部にしか知られなかったこともネットを介して一気に時空を越え、新たな常識や感覚に味付けされて広範囲に飛んでいく。つまり「怪談」は時代により品をかえ形をかえ、この先もなくならないということなんだろうな。面白かった。こういうの定期的にやってほしい。
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