「ドゥルガーの島」「鏡の背面」
大河が終わったので読書にまい進する日々。久々に篠田節子さん2連発。大掃除?年賀状?はて?
「ドゥルガーの島」篠田節子(2023)
篠田さんの最新作かと思ったら違った、もっと書いてた。本当に筆が速いといいますか多作なんですよね。まだまだ楽しみが残ってると思うと嬉しい。
さて今作の舞台はインドネシア。大手ゼネコン勤務の「カモヤン」がとある小さな島で海底古代遺跡を発見する。ボロブドゥールの遺跡修復事業にも携わったカモヤンはこれこそ男のロマンとばかりに、妻に一言の相談もなくサクッと早期退職して調査にまい進することを決意。そんなわけで冒頭で妻に逃げられたところから始まるのだが、本人にとっては青天の霹靂で全く理由をわかっていない。このカモヤン、バブルの申し子という年でもないのに昭和の香り漂う血気盛んと無限の気力体力とデリカシーの無さが同居しているなかなかの仕事デキ男で、特に現地でのコミュニケーション能力が異常に高い(私はかの高野秀行さんを連想した)。そして彼とともに調査チームを組むのは水中考古学者の准教授藤井(男性)、海洋文明研究者の人見(女性)。いずれ劣らぬ癖つよオタク揃いである。
国内でもそうだけど「遺跡」の扱いは難しい。見つかったからと言ってもろ手を挙げてワー大発見!!!ともならず、外国ならばまずその国の機関に認めてもらうまでが大変。時間と金と手間をかけまくって一旦許可をもらっても、政変やクーデターが起これば全チャラになりかねず、そこまでいかずとも現地の民族や宗教、慣習の違い等で立ち入りすら拒まれることも。あまりネタバレになるのも何なので作中の詳細は言わないが、国外の遺跡発掘において起こりがちな問題を全のっけ盛りしたような筋立てと展開だった。なるほどこれじゃカモヤンを筆頭とした無鉄砲な、ある意味規格外の謎パワーがないと無理だろう。以下、すこーしだけネタバレ。
島の神は女神で、女性中心に動く話ではあるのだが、まるきり一ミリも恋は生まれない。昭和脳のカモヤンが「女の人を置いて自分だけ逃げるなんて男がすたる」という、絶滅危惧種のような行動規範を持っていて、実際かなりの活躍をみせるのだが、見事なまでに恋愛モードは皆無。そこは全然構わないというかむしろ望ましい展開なのだが、個人的にはもうちょっとカモヤンをシメてもよかったと思う。妻が出ていく原因になった要素が非常時には有効に働くも、やはり「欠けた」ところではある、というエピソードほしかった(贅沢)。読み応えありました。
「鏡の背面」篠田節子(2018)
此方は第53回吉川英治文学賞受賞。いやーメチャクチャ名作だった。受賞も納得。ほぼ一気読みしました。面白かった。
様々な問題を抱えた女性たちの居場所として運営されていた施設が火事で全焼。若い母親と赤ん坊を助けようと二階へ向かった代表・小野尚子とその側近が遺体で発見される。ところが、のちに尚子の遺体がまったくの別人であったことを知らされる---
この滑り出し、もうこれだけで間違いなし!という感じだが、謎が徐々に解けていくその経緯がまた素晴らしい。舞台は国内各地からフィリピンへ、また国内に戻るが、視点はいつも「身近なもの」にあり、大上段から見下ろすような感じはない。それ自体が「小野尚子」そのものなのである。尚子という人間に関わり感銘を受けたフリーライターとスタッフのリーダー的存在の女二人が調査するのだが、ここでも「いささかデリカシーに欠けるが面倒見がよく有能」な男性がワイルドカード的な役割で登場する。この男性・長島もまた昭和のブンヤ脳で強引かつ無神経な言動が散見されたりもするが、やはり熱血で仕事デキなのである。年を食ってるぶんカモヤンよりずっと冷静だし、妻の介護も甲斐甲斐しくやってるので比べるのは失礼かもしれない。とにかくこの三人の絡みがほんっとうに面白い。是非何の前提知識もなく読んでほしいなと思う。全くネタバレしない方が絶対にいい。
人間の脳は考えているよりずっと脆弱だ。個人の「個性」「性格」というものも、単なる電気信号の成せる技と思えば、吹けば飛ぶようなものなのかもしれない。実際薬でコントロールできたり、壊れたりするわけだしね。ミステリーだが宗教もありオカルトもあり科学の力もあり、複雑なようでシンプルでもある。篠田さん作品の中で断トツの出来で面白さだと思う。超おススメ。
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