おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

「あんのこと」

2024年10月11日  2024年10月11日 

 6回目のコロナワクチンを打ったのでお家で大人しく遅い衣替えをしつつ観た。


「あんのこと」入江悠(2024)

 実際の事件記事から着想を得たというこの映画、気になってはいたが見損ねてしまった。映画館だとかなりキツかったかもしれない重量感。主人公杏役の河合優実さんはじめ、俳優さんたちの演技が大変すばらしかった。特に稲垣吾郎さん、どうしてこういう真面目系クズというか、一見いい人そうで本人も自分はいっぱしの人格者と思い込んでるが、言ってることやってることヤバい人物を演じるのが上手いんだろうか(燕は戻ってこない、もよかった)。人間観察力と洞察力が相当優れているということだろう。派手な演技というわけじゃないのに目が離せない。

 さて、当ブログではいつもできるだけネタバレを避けて書いているが、この作品においては思いっきりネタバレで行かせてもらう。未見で知りたくないお方はここで画面を閉じてくださいまし。






 

 かなり賛否両論が分かれる映画じゃないかな、と思ったが、レビューをみてみると意外に好意的なものが多かった。私としては、もうひとつ食い足りないようにも感じた。バッドエンドはわかっていたけれども、そこに持っていくまでの積み上げがややリアリティに欠けてる……?と。例えば杏と同じシェルターに入っている女性が子供を押しつけていくエピソード。何故そこで管理人に相談しない?毒母に押しかけられた時は『管理人呼ぶ』とか言ってたやん?入居時に出てきたソーシャルワーカーも飛んでくる案件じゃ?まず薬局でああいう聞き方したら不審に思われるし、通報対象になること確実。さらに毒母に騙されて帰宅した後からの展開、突然の児相にはビックリ仰天。母親、そういう常識(?)はあったんか。そして謎にすぐ諦める杏。児相にトラウマがあるのか何なのかわからないが問合せすらしないって。信頼していた多々羅や桐野に裏切られる形になって、大人というものに関わるのが嫌になり隼人の存在が支えになってた……?と考えられなくもないけど、今まで逆らえなかった母に包丁向けるほどの激しい怒りをみせた割に隼人の無事は確認しないんかい。そこまで頭が回らない?気持ちが折れてしまった?なんだかこの「育児エピソード」そのものが違和感。杏を絶望させるために無理くり入れた感が否めない(実際、この部分は全くの創作らしい)。

 最初の方で出てきた「生活保護申請の受理を渋る職員」、コロナ禍で働く場所も学ぶ場所も「国の方針によって奪われた」とでもいいたげな流れ、国や自治体のサポートから漏れがちな人たちの話だからそう描きたくなるのはわかるんだけども、あまりにステレオタイプで鼻についた。極めつけが、杏が自死する直前の「ブルーインパルス」。コロナ下の記録として絵的にわかりやすいとはいえ、うーんちょっと、いやかなり不快だった。ここでこれを持ってくるのは悪意しか感じない。必要以上に「弱者を無視する社会」を強調しすぎてないだろうか。社会は決して一つにまとまったものではなくて、それぞれの場所でそれぞれの闘いがある。この映画にしてもその一つを取り上げただけのことなのに。

 一方で多々羅と桐野の人物造形は秀逸。特にジャーナリスト桐野の「正義」が如何に偽善的か・如何に世の中のために全くならないか「俺のせいで~」と泣き出す場面でキッチリ表現しきってる。個人的にはコイツが一番唾棄すべき輩と評価した。多々羅も全く以てダメなヤツだが、一応自分の罪は罪として善行とはハッキリ切り分けている。いや、「善行」という意識はないのかもな。だからああいうことになったわけで。冒頭でも言った通りこの二人の演技は本当に凄かった。

 結局杏を死なせたのは誰なのか、という問いに製作者はどう答えるのだろう。「わからない」じゃダメよね作る側は。まして「無関心な社会」とかいう回答じゃないことを切に願う。私が思うに元凶はあの毒母の存在、それ以外ない(ちなみにこの母を演じた河井青葉さんも半端ないオソロシサだった)。

 そして最後!最後が一番モヤったんだわ!

 杏に隼人を押しつけた母親がやたら「善い母」化してたのが本当に制作側の作為がみえてしまってもう。殆ど付き合いのない・育児経験もなさそうな隣人に幼子を押しつける母親が「杏ちゃんには感謝してる」?いや待てよ、そんな薄っぺらい言葉を「絶望の底に見える希望」「杏の生きた意味」にしないでほしい。そんなエピソードいらん。ウリも薬も止め、介護施設で働いて学校にも通い、生き直そうとしていた彼女の人生は十分美しいじゃないか。本気でそう思うほど、河合優実さん扮する杏は素晴らしかったのだ。映画の中でちゃんと生きていた。

 というわけで、いかに河合優実さんが天才か、と思い知らされた映画でした。ここまで言いたい放題しといて何ですが、最初から最後まで引き込まれました。観客をモヤモヤさせるのが目的ならば完璧に達成できてます、ハイ。 

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