「陰陽師」「などらきの首」
本や映画他、重いものが続いたのでここは軽く(でもホラー)。
「陰陽師」夢枕獏(1988)
「陰陽師 飛天ノ巻」(1995)
「陰陽師 付喪神ノ巻」(1997)
多分、学生時代に初めの方は読んだ……と思われる。がキレイに忘れていたので初見のように楽しめた。形としては「今昔物語」や「雨月物語」、「聊斎志異」みたいな短めの一話完結もので、
博雅が不思議な出来事に遭うか誰かに相談され、安倍晴明のもとに行く
または
安倍晴明が何かの使命を帯びており、博雅が補佐役として呼ばれる
で、たいていその前後に二人で酒を嗜みつつ現場に出かけて解決、といった体である。まるで水戸黄門のようなパターン化された展開が存外に心地よく、改行が多いのですいすい読める。三冊ほぼ一気読みだった。
若い頃にハマりきらなかったのは間が空いていたのと、この文字の少なさが物足りなかったせいだと思われるが(みっちり活字詰まってる系が好きだった)婆になった今これが滅法ありがたい上に、
「ああ、昔からこういう話はこういう形で広く一般に読まれていたんだろうな」
と実感もできる。一定のリズムがあると緩急もつけやすく、朗読にも向いていそう。面白かったのでシリーズ全読破を目指す所存。
「などらきの首」澤村伊智(2018)
比嘉姉妹シリーズ第三弾の短篇集。これ単独でも面白く読めると思うが、それまでのシリーズを読んでいればなお楽しめる、そんな感じ。以下、ネタバレしないよう気をつけつつ怖さ度を独断と偏見で判定(5点満点)と感想。
★★★「ゴカイノカイ」何故かすぐに借り手が引っ越してしまうビルの五階。困り果てた大家が知人の伝手をたどって頼んだのが真琴だった。
→「今昔物語」のような香りがしてよかった。
★★★★「学校は死の匂い」真琴の姉、琴子の妹である美晴の小学校時代の話。学校の体育館に出る幽霊の噂を調べるうち、衝撃の真実に行き当たる。
→「第72回推理作家協会賞短編部門受賞」とあって、一番まとまりがよく完成度も高いと思った。美晴には何となく陰惨なイメージが付きまとうがなるほどこれか、と納得。
★★「居酒屋脳髄談義」行きつけの居酒屋で後輩の若い女性に絡むサラリーマン三人。ところがその日はどうもいつもと様子が違う。
→サラリーマン三人の、世間でよく聞く典型的なセクハラパワハラを集めて凝縮したようなサイテーっぷりが面白い。
★★「悲鳴」大学のホラー映画同好会で映画の撮影中に起きた不可思議な現象をめぐってメンバーは大混乱に陥る。
→単純な人怖ものと思いきや、の意外性がよき。
★「ファインダーの向こうに」霊現象が起こると噂のハウススタジオでの撮影後、そこでは絶対に映るはずのない画像が保存されていたことが判明。調査のため野崎に紹介されたのが真琴だった。
→怖くはない、切ない話。一番好きかも。
★★★★「などらきの首」高3の野崎は友人の祖父母宅に言い伝えられる「などらき」について調べることになる。
→いつもの「よくわからないけど恐ろし気なひらがな呼称」が効果を発揮。これこそ晴明のいう「呪」(しゅ)よなあ。長編にしてもよさげな題材をあえて短篇にした感じ。キレのある怖さは短さ故かも。
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