「正欲」
映画も気になっていたけど、例によってサッサと終わってしまった。ので、原作を読んでみた次第。第34回柴田錬三郎賞を受賞したとのこと。
※今回はネタバレ注意!
「正欲」朝井リョウ(2023)
朝井さんの作品はデビュー作の「桐島、部活やめるってよ」を読んだと思う(たぶん)。ずいぶん前なので中身は忘れてる……が、何となくどういう文体だったのか読んで思い出した。いや文体は普通なのよね。人物の会話の流れとか心情の表現が独特。すごく読みやすい文章なのにいちいちモヤモヤする。ずーっとモヤモヤしっぱなしで読み終わっても持続する。おそるべきモヤモヤ。
かといって淡々としてるわけではない。登場人物それぞれの視点で語られる形式で、話はうねりながら徐々に交わり、サクサクと進んでいく。当然のように山場もある。およそ自分中心でそれぞれ勝手なことばかり思う登場人物たちだが、積もり積もって拗れた気持ちを言葉にすることで、わずかながら解決するし進展もないわけではない。なのにちっとも油断できないのだ、それこそ物語の扉が閉まっても。
年齢もさまざまな人物の中で、特に大学生たちの関係性と言動がリアル。会話も、考えている内容もどこか芝居がかっていてむず痒いことこの上ない。ただただ真っすぐで一生懸命なのだが、それは微笑ましいというものでは決してない。端的にいって恥ずかしい。何が恥ずかしいのかよくわからんのだけれども。若い頃の自分の甘さ愚かさ傲慢さを鏡で見せつけられてるような感じ?学祭の実行委員なんてやったことないんだけどね。
とはいえ人間というものは年を重ねたからといって必ずしも大人になるわけでもない。つか、全員同レベルといっても過言ではない。何なら一番年かさで社会的地位も高いお父さんが最も現実を見てなかったりするのだが、彼も痛烈な「鏡」を突きつけられる。これがまたキッツイ。結局は「ごくありふれた普通の」悩みを抱える大学生の八重子ちゃんが一番物事を喝破してたというオチも痛烈。
アンタら何やっとんねんいい年して。振り出しやん。というどうしようもなさと、それでも何とかしのいで生きていく、人同士の繋がりがあればこそ。というやや恥ずかしいベタベタな結論に回帰するのだ。何を言ってるのかわからないと思うが私もわからない(笑)。
最初から最後まで、良い意味で読者の予想や期待を裏切り続けるこの作品、映像ではどう表現したんだろうか。映画は第36回東京国際映画祭のコンペティション部門で最優秀監督賞および観客賞を受賞してる。評判も上々だったしますます気になってきた。いつか観よう、きっと。
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