おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

「偽情報戦争」「誤解しないための日韓関係講義」

2023年5月14日  2024年1月16日 

 GWも終わり。色々あったような気がしてるけど、私自身は特に何もしなかったなー。これから暫くは季節労働に従事する予定(謎)。


「偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い」小泉悠 桒原響子 小宮山巧一朗(2023)

 小泉悠さん(東大先端科学技術研究センター講師。専門はロシア軍事・安全保障政策)以外は存じ上げなかったのだが、桒原響子さん(日本国際問題研究所研究員)、小宮山巧一朗さん(一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター国際部部長。サイバーセキュリティインシデントへの対応業務にあたる)というそうそうたるメンバーである。以下、いつものごとく私的な理解のためのまとめ。私のテキトーなメモなんぞ読み飛ばしていいので、日本人全員読んだ方がいいと思う!読みやすいしそこまで長くもないし、ぜひぜひ!

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 日本は島国であることと日本語という言語の特殊性によって本格的な「情報戦」の攻撃を受けた経験がなく、諸外国のように情報の取扱いに対する危機感が薄い、という。

1)外交と偽情報 桒原響子

〇ディスインフォメーション(偽情報)とは:政治的・経済的利益を得ること、もしくは意図的に大衆を欺くことを目的として作成された虚偽または誤解を招く情報をいう。

〇外交・安全保障における世論形成手段はいくつかあるが、以下の二つは表裏一体のものである。

 パブリック・ディプロマシー:国益に資するための情報発信、イメージアップ

 プロパガンダ:不特定多数の大衆を一定方向に導き行動を起こさせるため、社会心理的な方法で特定の考え方や価値観を植え付ける組織的な情報発信

 →情報を与え影響を及ぼす、までは同じ。操作や欺瞞の意図があるかどうか

〇ディスインフォメーションの具体例

 武力行使の前段階、ハイブリッド戦の一部としても用いられる

 コロナワクチンのデマ情報発信・拡散

 ロシアのクリミア侵攻(2014)、米大統領選挙(2016)、スペインカタルーニャ州独立

→いずれもロシアのディスインフォメーションキャンペーンによる影響あり

日本では「デマ」「災害デマ」と称されるにとどまり、海外からの攻撃は念頭においていなかった。理由としては以下

・日本語の障壁

・社会や組織の閉鎖性

・国内での外国メディアのプレゼンスの低さ

・大多数が中国の影響力に疑念

〇海外の対策

・EU:2022年に「デジタルサービス法」制定。大手プラットフォーム企業に関する法的な規制

・台湾:中国のディスインフォメーションに対する危機意識高い(市民の9割以上が民主主義に危害を与えると考えている:2019)

反浸透法を制定、政府と市民社会の連携を強化

・日本の協力への期待も大きく、EUとディスインフォメーション対策に関する対話を継続することを決定(2021)

国歌によるディスインフォメーションの取り締まりには、常に言論と報道の自由が奪われるのではないかという疑念がつきまとう。米国でも対策員会を立ち上げたが、そういった非難を受け一時停止したことも。

2)中国の情報戦 桒原響子

 「戦狼外交」自らの主張を声高に発信する、アグレッシブな外交スタイル

 総領理事の交代 2020年2月~10か月つとめた理事(解任後失踪、身柄拘束されたか)はやわらかツイートで融和的スタイルだったが、次の理事は一転、米国批判と中国の内政や外交の宣伝第一の路線(日本での米国への信頼度低下を狙う)

・国際コミュニケーション力の強化により、発言力の構築・人的交流および文化的交流活動促進をねらう

・公共外交(パブリック・ディプロマシー)→相手国世論に働きかけ自国のイメージアップをねらう

・中国の安全保障戦略「世論戦」「心理戦」「法律戦」の一部を成す

・対メディア戦略

・「孔子学院」を介した中国語教育、文化交流

日本への攻撃は今のところ「オウンゴール」で失敗しているが、今後は対策必要

3)ロシアの情報作戦  小泉悠
プーチンは、自発的な意思を持った主体としての「市民」という概念そのものを疑っている。背後には必ず首謀者と金で動く組織が存在する、という世界観。

2016年米国大統領選挙への介入は「復讐」である。

〇2000年代初頭

選挙不正疑惑について市民からの報告を収集、地図上で可視化した「ゴロス」というサイトへのサイバー攻撃(大量の偽情報を投入・代表者を拘束しようとした)

「ライブジャーナル」へのDOS攻撃

敵対者の名誉棄損作戦(コンプロマート)

〇2012.3 プーチン3選

・インターネット空間の統制(保安期間がユーザーの通信記録を自由に閲覧可能に)

・反不正選挙デモは米国務省の差し金、デモ参加者は米国から金を貰っていたと主張

〇2014.2 マイダン革命

「ウクライナはロシアにとって特別な存在である」

①国土面積、人口、総生産も上位の大国である

②民族主義的な観点

・ロシア、ウクライナ、ベラルーシは古代ルーシの継承者。今の国家単位はソ連下での「発明品」にすぎず、ルーシの民は分断され別国家となってしまった。これは「手違い」であると主張

従ってマイダン革命は「ルーシ民族分断のための西側の陰謀」と見なされた

〇2014.2.25 クリミア併合

「セネーシュ」によるウクライナの情報遮断

2013年夏ごろから多数派であるロシア系一般市民の中からトロールを集め、ネット世論を操作。政府ぐるみの大規模プロジェクトだった

〇ロシアが行っている情報戦

・マルチチャンネル化とボリューム効果の利用

大量のニュースアカウント、SNSアカウントで偽情報発信・多くのユーザーが支持しているかのように見せる・自分と同じような人が支持していると思わせる

・迅速性、継続性、反復性

・客観的現実との乖離

・情報の非一貫性の効果

矛盾した情報を複数チャンネルから流す→「真実」を知りたいと思わせる→より説得力のありそうな偽情報を拡散→矛盾は検討した結果とみなされ信頼される

認識を180度回転させるのではなく「何が事実かわからなくさせる」


4)ポスト「2016」の世界-ロシア・ウクライナ戦争までの情報戦の成功と失敗 桒原響子   小泉悠

〇2020 米国大統領選

この時のロシア介入はあまりうまくいかなかった。理由は以下:

・米国社会がディスインフォメーションに対し耐性を獲得していた

・大手SNS運営が予防措置を講じた

・前方防衛(フォワード・ディフェンス)を取り入れ、ロシアのトロール工場を遮断

それでも「不正選挙を主張する群衆800人に米国連邦議事堂を占拠」ということが起こってしまった。→トランプを支持し陰謀論に与するQアノン他極右集団

〇2022 ウクライナへの情報戦

・ネオナチ思想をもつ

・西側の後押しで核兵器開発している

開戦後には「コロナは米国の生物兵器研究所から出た」と発信

〇ゼレンスキーの手腕

①聴衆が誰かを把握

②メッセージ内容を相手国によりカスタマイズ(ニーズや関心ごと)

③ウクライナで起きていることは他人事ではない、自分たちの問題でもあると思わせる


5)情報操作とそのインフラ  小宮山巧一朗

サイバー空間とは:物理インフラ・論理インフラ・情報 により成立

情報通信ネットワークとは:広範囲にわたり人が連絡する手段

 有事となると物理インフラを構築・破壊両方が行われる(日本も重要性は認識)

〇第二次ウクライナ戦争と情報通信ネットワーク

・KA-SAT ヴィアサット社→衛星と通信するための地上側の機器が細工され誤動作を起こした

・テレビ塔への砲撃

・データセンターへのミサイル攻撃→予見されていたので、別の場所に移行済み

・携帯セル網は開戦時30%の国外接続を失う。国内サービス提供エリアは16%減

物理インフラへの激しい攻撃の一方で、携帯電話網の破壊は情報収集のためか抑えていたようなふしがある。

〇論理インフラ(インターネットサービス、SNSなど)

ロシアを完全に締め出すことは困難だが、ロシア国内の通信会社との契約を切るなどで対応

ロシア国内では「テレグラム」がよく使われているが、この企業の事業目的は言論の自由を政府の干渉から保護することであり、ロシア政府との関係は良くない。むしろ遠ざけている。「シークレットチャット」は管理者も読めない仕組み。

ただし捜査当局にも協力しないスタンスなので、犯罪者やテロリストに人気。温床になっている。


6)民主主義の危機をもたらすサイバー空間-「救世主」から「危機の要因」へ 小宮山巧一朗
 ディスインフォメーション攻撃を可能としたサイバー空間とテクノロジーは、民主主主義という形態全般への影響も大きい。

 民主主義の国は世界人口の僅か2割。理由は以下(宇野重規による)

①ポピュリズムの台頭

②独裁的指導者の増加

③第四次産業革命と呼ばれる技術革新

④コロナ危機

 言論の自由、プライバシーを守る、法の支配の尊重、規制を最小限に→格好の攻撃対象

国家がこれまで保有していた力の要がテクノロジー企業によって握られている

〇民主主義を守るには?(小宮山氏の意見)

・サイバー空間における言論の自由やプライバシー云々は、基本的人権の範疇という認識を醸成すべき

・選挙システムは現行のままで

・非中央集権システムとする


終章 日本の情報安全保障はどうあるべきか

①政府と国民が危機意識を共有、対策の枠組みを構築

②関係府省庁の連携(横断的な対応を可能とする体制)

③官民連携

④国民の表現の自由の保障

⑤ジャーナリズムの位置づけ(マスメディアは自身の役割について再確認すること)

⑥国際協力推進

とにかく国民一人一人の情報リテラシー、メディアリテラシーを高めることが大事。

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 ツイッターで最新情報をバシバシ追っかけていたつもりの私だったが、

「え、マジでアレもコレもソレも、そういうことやったんや…」

と震えている。今そこにある危機に対し、日本はあまりにも無防備だ。



「誤解しないための日韓関係講義」木村幹(2022)

【5/7時事ドットコム】韓国の尹大統領は「歴史問題が完全に整理されなければ未来への協力のために一歩も出られないという考え方からは抜け出すべきだ」と述べた(ソウル時事)

 正直びっくりした。今までとかなり方向が違う。そして怖くなった。それほど周辺状況はヤバいのかと。しかし怖がってばかりもいられないので、

「そもそも韓国とはどういう国で、日本とはどういう関係性なのか」

 を学びなおそうと思った。で、ひとまず此方の本を図書館で借りてみたら、「講義」とある通り学生の質問に答える形の、大変とっつきやすくわかりやすい、私のようなド初心者にはうってつけであった。

 まずこの国の大統領について、任期が終わるや否や逮捕されたり暗殺されたりと、およそまともな末路を辿っていないイメージがあり「制度の問題」ということもチラっと聞いてはいたが詳しく調べてみたことはなかった。大統領は一期五年と憲法で決められており、たとえ改正したとしても、その期の大統領には適用されない(→手間暇かけて変える意義が少ない)。つまり誰が大統領であろうと再選は成らないので、任期が終わり近くなると一斉に現職からは距離を置き、新大統領とみなされる人に結集するわけだ。その逆風の中で汚職を追求されたりスキャンダルを暴露されたり、ということが起こりがちであると。

 そして日韓の歴史認識問題がなぜいつまでも続いているのか、これも自分の理解がかなり中途半端だったことがよくわかった。日本の敗戦により韓国は植民地支配からは解放されたものの、統治はアメリカとソ連に引き継がれ、日本と韓国が直接向かい合い、お互いの利益問題を話し合い清算する機会は失われた。20年ほど後にやっと国交が回復するも、当時日本は高度成長期、片や韓国は朝鮮戦争後で貧しい分断国家、平等な立場での交渉になるわけがない。日本が圧倒的優位の中で結ばれた「日韓請求権協定」は、韓国にとっては大幅な譲歩を強いられたものだった―ーー

 その後の経緯もなるほど、こりゃいつまでも言いたくなりますわ……と腑に落ちた。  

「一国の政府がただひとつの国だけに拘って動いているはずもなく、常に世界各国の動向や状況を鑑みつつ自国にとっての最適解を求めているにすぎない」

 という至極当然の認識を得た。つまり、今の大統領の動きはさほど驚くべきことでもないということだ。ウクライナでの戦いを目の当たりにして、どこの国も防備を固めようと動いている、その一環というだけ。

 ひとところ流行った嫌韓も、韓流も、私自身特にハマり込みはしなかったが、各種マスメディアの論調に知らず知らず乗せられていたところは確実にあったな、と実感。何となくでも一旦形作られたイメージというのはなかなか消えない。リテラシーを高めていこう、全方位的に。 

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