おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

「謎の独立国家ソマリランド」「室町は今日もハードボイルド」

2023年3月13日  2023年9月12日 

急にあったかくなってきて嬉しいが花粉の圧がヤバい。


「謎の独立国家ソマリランド」高野秀行(2013)

 すごく面白かった。古来からの氏族で繋がるコミュニティでありながら結構な法治国家であり民主主義的な手続きを経て物事が進むソマリランド。独特の過激さ粗雑さはあるものの概ね秩序だった生活を送れているまさに「謎」の国。

 いわゆる「ソマリ人の国」はソマリア・ソマリランド・ブントランド三つに分かれていて、たぶん日本人が連想する「北斗の拳」(※本書の表現)状態の国が南部のソマリア。いわゆるソマリア海賊の出元はブントランド。ソマリランドは様々な内紛を経つつも、昔ながらの氏族支配の伝統を残したまま独立国家を宣言した。興味深いのは、イギリスの植民地であった北部のソマリランドは間接統治で、長老や氏族の力をそのまま残したが、南部はイタリアの直接統治で、移民を一万人以上も送り付けて社会を一変させたため従来のルールが機能せず荒れたという。

「南部の奴らは戦争をしない。だから戦争のやめ方もわからない」

 というソマリランド人の言葉が深い。

 そして以前観た映画「ブラックホーク・ダウン」の舞台がまさにソマリアだったことに、本文読んで思い出した(遅)。〇〇氏族分分分家みたいなのが乱立し、どんなに遠い繋がりであっても各々の長老に従うといった地元特有の事情を何も知らない米国が、国連軍として参加したものの失態に次ぐ失態をやらかし、ブラックホークを撃墜され米国人兵士を殺されるといった憂き目に遭い全面撤退を余儀なくされた。無知と無理解は事ほど左様に悲劇を生む。(とはいえ米国はとある氏族からの依頼で動いている、やや気の毒な立場ではあるが)

 なーんて固めに書いてみたが、中身はこういう感じでは全然ない。「カート」(葉っぱ:意味深)をかじりながら現地民との宴会に混じり様々な話を聞き出す著者のバイタリティ、それを遥かに凌駕するソマリ人たちのバーサーカー(いろんな意味で)ぶりに圧倒されつつ、最初から最後まで面白おかしく読める。そして以前に読んだ「世界の辺境とハードボイルド室町時代」の対談の内容がますます腑に落ちた。カートに当たるものを酒とすれば、こりゃ確かに日本の中世世界だ。



「室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界」清水克行(2021)

 続けて読んだコレ、途中まで違う著者の本だということを忘れるほど何だかノリが似通っている。中身もそう。え?これソマリランドの話じゃね?と錯覚しそうな、中世の日本人のおおらかさというかいい加減さというか、何というか超自由。真面目で勤勉という日本人のイメージは明治以降であって、もしかして本来はこういう気質だったんじゃないの?と疑いたくなる。お上のいうことを決して諾々と聞かない民草のしたたかさも。

 地方や地域や家によって桝が違うという話は何かで聞いたことがあったが、それが現代のSサイズの幅の広さに繋がっているという発想はなかった。そもそも合わせる気も必要性も感じてないと。ジャパンのいろんなものがガラパゴス化しがちなのもここからなんかー!といろいろ腑に落ちてしまった(いや、そこまで単純な話でもないだろうけど)。

 ただこういうカオスな状態がすべて整理され、統合されてひとつの「世界政府」なるものにしてしまったらどうなるか?個人の自由を守るための最終手段としての「国家からの離脱」が不可能となる。他に行き場がない状態が果たして幸せな社会なのか。

「多様な国家が分立している現代の世界は不安定である反面、『様々な主権国家の存在が、完全ではないにしてもそれなりの保護機能をもった様々な避難場所を諸個人に提供している』ともいえる。」(本文より抜粋)

 多分こういった「自由」を完全に手放してしまうと、取り戻すには相当の代償を払うことになるんだろう。何をするにも細かい手続きが必要でなかなか決まらない我が日本は、まだまだ自由を多く含んだ国だな、と実感する。

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