「黒面の狐」「工学部・水柿助教授の日常」
このところ全く読んだ本に外れがない。あの「倫理学」も本編部分はとても良かったし読んで損したってことは全然なかった。あ、うわっと思っても基本ネタに出来るからか!納得(終了)
「黒面の狐」三津田信三(2016)
「家シリーズ」から入ったので、実はミステリ作家としても名を上げられておられるのを存じませんでした。此方はほんのり(ガッツリ?)オカルト入りつつも連続殺人事件の謎解き話。戦後まもなくの炭鉱を舞台に、さまざまな過去を持った人々が交錯する一大群像劇でもあります。面白かった。
主人公・波矢多(はやた)の波乱万丈な半生だけで一本かけそうなボリューム。満州国にあった大学のくだりはすごく興味深い。炭鉱についても、戦前・戦中・戦後と時代が下るにつれ変化があり、坑により運営も異なっていたこと、労働者の多くは訳アリだったこと、などなど殊更に悲惨を強調しすぎることなく、誰かを悪の権化と決めつけることもなく、あくまで普通の人間としてフラットに描いているのは好感が持てた。どの程度史実に沿っているのかはわからないが、巻末の参考文献リストは歴史本か?というくらいたくさんある。こういうのも何かの入り口になり得るからいいよね。シリーズになってるみたいなので続きも読む予定。
怖さ★★★☆☆
(映像にしたら相当怖い気はする。暗い坑内にトロッコで下る場面は想像するとヤバい)
ところで三津田さんの作品、これまで読んだ中には時々「この先の何かを予見させる」あからさまな一文が入るのよね。一種の効果ではあるんだろうけどネタバレっぽくて違和感がある。キングでもたまにそういうのあるけど「ここでこう言っとく」必然性が高いので気にならない。単に好みの問題かもしれないけど。
久しぶりの森博嗣さん。なんとなんと、デビュー作「すべてがFになる」以来である。「えらいこと面白かった」という記憶はあるもののかなり昔なので丸っと記憶から消え去ってますなう。読み直したくなったがデビュー以来破竹の勢いで何冊も書いててビビる。「トーマの心臓」のノベライズまでやっとるやん(読みたい)。
さて此方、タイトルから受けるイメージ通り超・超ユルい本だった。理系・ラジコン&鉄道模型オタク・くまちゃんぬいぐるみ好きの主人公のお呑気ライフ、といえば雰囲気はわかるだろう。しかしこういった男でもチャッカリ結婚できているというのは時代なのか(暴言)。案外モテてるっぽいのがこれまた地味にイラっとくる。かなり食えない男じゃないの?
その疑いは、小ネタを淡々と繰り出すだけのユルい日常ものと見せかけて、いつのまにかよくわからないドライブがかかり出す中盤辺りから確信に変わる。一切日常からはみ出ていないし文体にもさして変わりはないのに、である。日常とは何なのか(哲学)。老獪な作家の罠にまんまと嵌められてしまうの巻だ。
さして長くもなく途中でうっちゃっても問題ない(でも時間かけてまで読む本でもないw)どこででも気軽に読める本だが、電車内と食事中はやめたほうがいいと忠告しておく。まず飲み物吹く。どこで、て言われても困るが高確率で吹く。要注意本である。寝っ転がりながらテキトーに読んでニヤニヤするのには最適だ。
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