「ひかるのきみ」完結!大女子会ファイナル!(1)
「……はっ?!」
「なあに侍従ちゃん。変な声出して」
「右近ちゃん!!!完、て何?!これで終わりなの?!ええええー!!!」
「やあねえ侍従ちゃん。最初からわかってたことじゃない、出家した浮舟ちゃんの居所を薫くんが知って、お手紙出すけど断られるってとこでハイおしまいって。色んな人が源氏物語訳してるんだから」
「そ、そうだけど!思った以上に尻切れトンボっつうかなんつうか」
「侍従ちゃん、そうは言うけどさ。じゃあこの先どうなって、どういうラストがいいと思う?」
「……え?!この先……うーん、多分薫くんが何とかして浮舟ちゃんと元鞘に収まってメデタシ!とか?」
「ふっ、凡庸ねえ。メデタシメデタシで終わらない、その先の地獄を描くのが紫式部さんてもんでしょうが。却下」
「うえーん!!!」
「そもそも薫くんじゃ、すんなりとはいかないんじゃない?」
「王命婦さんだ!」
右「いらっしゃい。……随分大荷物ね」
王「そりゃあ最後ですもん。ちょっといいお酒と肴、お惣菜から乾きもの、スイーツに至るまで持ってきたわ」
右「もしやそれは六条院の……?」
王「もちろん。さすがいいもの置いてるわよね(ニッコリ)」
こんにちは、と声。
侍「あっ少納言さんも!お久しぶりでーす!」
少「私も少しですが持ってきましたわ、二条院から」
侍「わーい!!!メッチャ豪華じゃん!!!」
しばしテーブルセッティングとグラスの用意。
右「皆さま、グラスの用意はよろしいでしょうか?」
「はーい!」
右「さてこの度『ひかるのきみ』もついに完結の運びとなりました。本日はご多忙の中、最後の平安女子会にお集まりいただき、まことにありがとうございます。完成祝いと慰労を兼ねたこの女子会、わたくし右近が乾杯の音頭を取らせていただきます。皆さま、足掛け十三年という長の年月、大変お疲れ様でございました!乾杯!」
「かんぱーーーーい!!!」
侍「うっわ、このタコのから揚げニンニクきいててメッチャ美味しい!」
王「ふふ、よかった。明石からのお取り寄せがドッサリ届いてね、今六条院でブームなのタコ料理。カルパッチョ風サラダもあるからこっちもどうぞ」
右「待って、この京野菜の葛よせ絶品なんだけど。少納言さん手作り?」
少「お恥ずかしいですわ、ありがとうございます。中君さまにもお褒めいただいたので、持って来てみました」
侍「ああーーもうどれを食べても全部美味しい!幸せ!!!」
しばし飲み食い。
侍「ヤバい、お酒も美味しい。無限に入っちゃう」
右「侍従ちゃんはいつもそうじゃん」
王「まだまだあるからね、どんどん行ってだいじょぶよ」
少「これで『ひかるのきみ』ともお別れなんですねえ……」
右「いやだ、急にしんみりさせないでよ」
侍「(涙ブワっ)そ、そうだ続き!続きどうなるか考えよ、皆で!」
王「そう考えた後世の人は山ほどいたみたいでね。いわゆる源氏物語・補作ってジャンルあるみたい。そのひとつが『雲隠六帖』ってやつね」
少「それだと浮舟さんが還俗されて、薫さまとご結婚なさるんですよね」
侍「エッ!やっぱりメデタシバージョンじゃん!」
右「ただね、それ紫式部さんが書いたんじゃないからさ。源氏物語大好きな人ではあるんだろうけど、やっぱり『こうだったらいいな』的なお話なのよね……実際はそうそう簡単には行かないと思う、私は」
王「ラストからの続き、このメンバーで考えたら面白そうよね。ちょっとやってみましょうか。では私から行きます(ウォホン)
『他の男がいるのかいないのか、それはともかくとして、母君には伝えてやらないと。まずはあの小野の庵を整えてやろう』
真面目で誠実な薫くん、やはりスッパリ斬ることはできない。文が受け取って貰えないなら物で、とばかりに小野の庵宛てにドッサリ贈り物をする。仏さまへの寄進をはじめ仏道具や衣装やいくらあっても困らない日用品など、すべてが絶妙のセレクトかつ華美になりすぎない程度のハイセンスに、尼たちは皆『素晴らしいお気遣い』とかなんとか大感激、全員薫くんの味方に」
右「薫くんはさらに有能っぷりを発揮、小君を通じて浮舟ちゃんの母君に連絡を取り、対面できるよう取り計らう。母君、薫くんからのお迎えの車(派手さは抑えているが豪華)に乗って小野へ。母子涙の再会。さすがの浮舟ちゃんも薫くんに感謝せざるを得ない。一晩語り合って全ての事情を知った母君にも促され、初めて薫くんにお礼のお文を書く。喜んだ薫くんから良い感じの返信が速攻で来て、母君ともども対面にまで漕ぎつける。色んな誤解が解けて、やはり還俗するべきという方向に傾いていく浮舟ちゃん。薫くんも僧都とやりとりして今後の段取りに入る。このままうまくいくかも?と誰もが思った」
侍「ハイハーイ!と・こ・ろがっ!尼君の元娘婿・中将が浮舟ちゃんに懸想した話を、チョーシこいた少将の尼君がウッカリ口滑らせる!あっ、中将を手引きした人ね、口軽そうだし!」
『丁重にお断りしました』
という説明も同時に受けて、一旦は納得する薫さま。が、思わぬところから噂が広がっていく……常陸守のお邸で妹姫の婿の左近少将が
『元は私の婚約者だった!』
などと職場で謎のドヤ顔をし、伝え聞いた中将さんが
『なんてことだ私は騙されていた!』
と周囲にボヤいて……回り回ってついに匂宮さまのもとに届いてしまった」
王「次期春宮を目されている匂宮くんはさすがにもう自分では動けない。いつもの側近に小野の庵を探らせるも、薫くんの従者に顔が割れており秒でバレる。疑心暗鬼の虜になった薫くん、またもや浮舟ちゃんにチクリと嫌味な文を送りつけてしまう。訳がわからず動揺する浮舟ちゃんに匂宮くんからの文が届く。
『貴女のための邸はまだそのまま残してあります。お返事くれたらすぐ迎えに行くよ』」
侍「うひゃーーーーー、ヤッバイ!てか、終わらないコレ!」
少「なんだかすごく続きが気になりますわ……浮舟さん、ついていかれるのかしら」
右「いやいや無いわ……何とか薫くんと修復する方が安全でしょどう考えても」
王「もう一本宇治十帖書くくらいのボリュームになりそう。というか、匂宮くんを絡ませるとまた同じ展開になっちゃうわね」
少「一応、補作の方だと特に匂宮さまの動きはないんですよね。薫さまが浮舟さんを引き取る辺りで帝に即位されますので、さすがにお立場上もうあんな大胆な動き方は無理、ってことにしたんでしょうね」
右「うーん、そこらへんがやっぱり書き手が紫式部さんじゃないって感じ。だいたい皆が年取って分別ついてくると無茶しなくなってつまんなくなるのよね……やっぱり、原文通りに終わって正解な気がしてきた」
少「そうですねえ。その補作も、最終的には誰が亡くなるやら出家するやらって話に終始しますから、ワクワク読み進める感じ、にはならなかったかもしれません」
王「要は、その後が容易に想像できるくらい登場人物たちのキャラが確立したところで終わらせたってわけか。私らが今テキトーに考えたことなんて、紫式部さんほどのお方なら全部スっと見えたでしょうね。その瞬間に、あ、もういいやって思ったのかも」
侍「そっかー、見るべきものは見つ!ってやつね!平知盛イエー♪」
右「侍従ちゃん、そっちは平家物語!お酒回ってるわね」
少「時代が違っても人の心は変わりませんね……」
ピコーン♪
右「あら?誰……ってええええ?!」
<大女子会(2)につづく>
参考HP「源氏物語の世界」他
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