おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

真木柱 一

2020年12月5日  2022年6月9日 

 


「ねえねえ侍従ちゃん!」

「なあに右近ちゃん……っていつもと逆じゃん。どしたの?」

「どうしたもこうしたも……やられたわ。出し抜かれた

「エッ、ついにヒカル王子が玉鬘ちゃんに手出したとか?」

「違う違う。それならまだ、いやそれも大変だけど、ここまで驚かない。ああ……王命婦さんにあれほど釘さされてたのに、ノーマークだったわ……」

「う、右近ちゃん大丈夫?兵部卿宮さま?もしや夕霧くんとか?」

「……」

「右近ちゃん?」

「……ひげくろ……」

「エエーーーー!!!マジかーーーー!!!」

「そのマジ本当……」

「右近ちゃんしっかり、何か日本語おかしくなってるよ。アタシはいつものことだけどさあ。そうなんだ……鬚黒大将さん……一番望み無さそうなとこだったのに。え、どんな感じで決まったの?お手紙とか返事すらしてなかったんだよね?」

「よくある手よ。女房さん一人に的を絞って、君にしか言えない、君だけが頼りだって泣きついて手引きさせるってやつ。若手が多い西の対の中でも、比較的大人しい、口の堅い子だったから本当に油断してた……その子、弁の御許ちゃんっていうんだけど、玉鬘ちゃん激おこで出禁にされちゃってる」

「ちょ、まって?もしかして最初の対面でいきなり?!

「そう、いきなり。殆ど喋ってもない」

「エエエエー!!!ヤバ!!!」

「弁の御許ちゃんだって、まさかそんな急に事が進むとは思ってなかったわけよ。だから本気で反省して凹んでるみたい。でも、もうコッチには金輪際来れないわね……浅はかといえばそうだけど、年齢もかなり上であれだけの身分の男性に逆らえるわけないし、むしろ気の毒」

「いや、えっと……平安時代のあるあるだけどさ実力行使の結婚は。でもヤバくない?王子はそれ許したの?」

「それがね、そこは周到なのよ鬚黒は(もはや呼び捨て)。事前に、内大臣さまにキッチリ根回しして了解取りつけ済み。こうなるともう、太政大臣といえども手は出せない。実父が実質OKしてるんだもの、こんな感じに。

『まあ、鬚黒大将の妻くらいが無難じゃない?ヒカルがバックにいるとはいっても、細かい面倒みてくれる後見役もいない状態で、中途半端に宮仕えに出ても結局シンドイだけじゃないかなって心配だったんだよね。いや、私だって父親として大事にしたい気持ちはあるよ勿論。だけど弘徽殿女御を差し置いては無理よ、そこは当然でしょ』

 仕方ないから、三日夜の餅とか結婚の儀式は正式な形でちゃんとやるつもりらしいよ王子。内心イヤイヤでも『知ってた』ことにしないと、六条院の警備態勢と女房の質に疑問持たれちゃうし、それこそ王子との仲を疑われちゃうしね」

「あああ……何と言っていいかわかんないわ。玉鬘ちゃんの気持ちを考えるとつらすぎ。……宮仕えどーすんの?もう中止?」

「いや、さすがに決定事項に近かったから、少しでもやらせるつもりみたい。帝のお耳にも入ってて、

『此方とは縁の筋が違ったようで残念だ。しかしご本人も望んでおられたのだから、后としてではない宮仕えであれば、差し止める理由もなかろう』

 と仰せだとか」

「えっもうそこまで話広まっちゃってんの?!早くない?」

「だってもう、鬚黒のオッサン浮かれポンチのお花畑状態なんだもの。

『思ってた通り、いやそれ以上にメッチャ綺麗な子だー!誰かに取られる前に手に入れてよかったー!ヤッホー!願を掛けてた石山観音様、それに手引きしてくれた弁の御許、並べて拝み奉りたいくらいだよー!ありがとホントにありがと!』

 玉鬘ちゃんが口真一文字にして涙目でいる横でコレ。ほんっと観音様だかなんだか知らんけど、とんでもない願を叶えてくれたもんね全く」

「……えっと、でも例の正妻さんまだお家にいるんでそ?そこは解決してんの?」

「それそれ。今すぐにでも連れ帰りたい!とか言っちゃってるけど、さすがに王子が止めてる。

『ここまで広まっちゃったらもう無駄だけどさ、なるべく波風立てないように、騒がれないようにしなさいよ。どこからも非難されたり恨みをかわないようにね。ていうかもう帝もご存知だからね?わかってんの?大概にせえよ

 って、破れかけのオブラートにくるんで言ってるみたいだけど、鬚黒お花畑で聞きゃしない、ってのが現状」

「右近ちゃん、オッサン呼ばわりからの呼び捨てー!平安時代でもギリ許されるかどうかって微妙なラインつか、ドン引きだわ……でも六条院としちゃ承知の上って建前でいるしかないもんね、玉鬘ちゃんのためにも。一応、玉の輿っていえばそうなのかな。明石の君の時もそうだけど、思ってたんと違いすぎるう玉の輿って(泣)」

「何だかもう……情けなくって。どう考えていいのかわかんないわ。でも、考えてても仕方ないのよね。流れに従うしかないのよ、私たち女房も、もちろん玉鬘ちゃん自身も」

「あああ……また違う方向からの嵐が吹き荒れて……泣」

参考HP「源氏物語の世界」他

<真木柱 二 につづく 

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