おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

野分 三

2020年11月16日  2022年6月9日 

 

「ねえねえ右近ちゃん」

「なあに侍従ちゃん」

何コレー!って最近こればっかりだけど、この巻って『野分』っていうより『ノゾキ』じゃん!あのピュアピュアホワイト♡だった夕霧くんがどんどん汚れてく!」

「やあねえ侍従ちゃん、何を今更。平安時代の貴族男子なんて殆ど皆それじゃない。ヒカル王子だって若紫ちゃん見初めたのノゾキ、いや『垣間見』したからだし」

「だってだって!それは北山のお寺にいって暇を持て余したからでしょ?夕霧くんてば、偶然紫ちゃんを覗き見してからタガが外れた感ない?普段生真面目な子が一旦弾けると際限ないっていうけど、まさか夕霧くんがこうなるとは……ショックうー。ついこの間まで童殿上してたかーわいい美少年だったのにい!」

「まあまあ、仕方ないわよ。王子はさ、内裏から出た後はほぼ独り住まいだったからフラフラ外に出かけてたけど、夕霧くんはあの六条院に住んでるわけだからね。下手に外行くより手近であれだけのクオリティの女子がワンサカいるとなれば、そりゃ覗きたくなるわよ。むしろ今までそこに気づかなかったんかいって感じよね。まあ王子が完全ブロックしてたせいだけど」

「そ、そっか……昔の自分を思えばそりゃ警戒するわよね……藤壺の女院さまなんて小さい頃からずーっと元服するまで普通に顔合わせててそれでああなってこうなったんだし」

 ピコーン♪

侍「あっせっちゃんだ!やっほー!」

右「何だかすっかり定着しちゃったわねえ、リモートトーク」

せ「こんにちは!緊急連絡です。たった今、夕霧中将さまが此方にいらしたんですけど」

侍「えっ何何?また覗いてた?

せ「何でわかるんですか(笑)」

右「えっ本当に?!マジで弾けちゃったのね……」

侍「ひーん、さよならピュアホワイト!

せ「そこまで大袈裟なことでは(笑)一昨年まではそれこそ纏わりついて遊んでらしたわけですし。実の妹君ですからね。ただ、隔てを置くようになって以降、そんな素振りは全然なかったので、どうしたのかなーって思って」

右「それがねえ……(かくかくしかじか)」

せ「なるほどそんなことが。勢いついちゃった感じですか。姫君は野分を怖がって寝たのが朝方でしたので、今朝はお寝坊されて、随分遅れてお出ましだったんですよ。私たちが几帳立てたりバタバタしてるときに、夕霧さま何気に妻戸の隙間から御簾に半身入れてらして」

右「あらまあ。割と大胆ね」

せ「基本的に静かに動く方なんで、私以外は気づいてなかったと思います。ただ、ブツブツ独り言いってらして。

『桜、山吹……此方は何の花だろう。藤の花?背の高い木から咲きこぼれて、風に吹かれている感じ……小さくて可愛いな。いいね、こういうの』

 姫君は八つにおなりで、まだそこまで長くない髪が末広がりにふわっと広がってるんですね。お顔立ちは元より整っておられますから、夕霧さまにしても普通に妹として愛でていたって感じです」

右「雲居雁ちゃんとはどうなってんの?何か知ってる?」

せ「それなんですよ!姫君のお仕度を待ってる間、しっかりお手紙書いてました。紙はこちらで用意したんですが、紫の薄様に、

『風騒ぎむら雲乱れる夕べにも

忘れる間もなく忘れられない、貴女のことが』

って、すごく丁寧に墨をすられて、筆先見ながら念入りに書かれてましたね。って、考えてみればこのお歌も畳む前にこっそり覗いちゃいました私(笑)」

右「さすがはせっちゃん。見逃さないわね、女房の鏡よ」

侍「ええーいいないいな、すっごいストレートな恋文だよね。まさに若い!ってかんじー」

せ「ですよね。なのに夕霧さまったら、これを苅萱(かるかや)に結んだんですよ?」

右「かるかやって……ススキみたいなやつ?紙が紫の薄様なのに?」

侍「枯草じゃん!地味スギイ!

せ「ですよね。速攻でそこにいた女房さんから

『交野の少将でしたなら、紙と同じ色に揃えましょうに』

 とからかい半分のツッコミが入ったんですが、

『え、そうなんだ。考えつかなかった。何色の花がいいかな』

 って生真面目に仰るんですよね。いや、そこはボケてほしかった」

右「何その野暮天っぷり。まあ十五歳だし、長く男ばっかりの大学寮にいたし仕方ないのかな。王子と血が繋がってるとは思えないわね」

侍「やっぱりピュアなんだよ!うん!」

せ「……すみません侍従さん。実はその後、もう一通書かれてまして。別の方宛に」

侍「エ?!」

右「ああ、もしかしてもしかしなくても、藤典侍ちゃん?ほら五節の舞姫やった惟光さんの娘さん」

せ「はい、きっと。ご本人は童女ちゃんやご家来さん相手にこっそりやってるおつもりなんですけど、周囲の女房さんたちみ~んなガン見状態ですよ。笑ってしまいました」

侍「ああ……やっぱりさよなら、ピュアホワイト……!」

せ「大丈夫ですよ侍従さん。この間小侍従ちゃんから聞いたんですけど、内大臣さま流石にそろそろ許してやらなくもないって気持ちに傾いてるみたいです」

侍「エッ!ついに!やったじゃん」

せ「今すぐにどうっていうことではないんですけど、この間久しぶりにご実家の三条宮邸をご訪問されて、ずっと雲居雁の姫君に逢ってないって大宮さまに泣かれたらしいです」

右「そうね、大宮さまにしたら可愛い孫娘を取られちゃって何なのどうにかして!ってなるわよね」

せ「三条宮邸にはそれなりに若い女房さんもいらっしゃいますけど、基本皆出家された方ばかりで質素にしんみり暮らしておられますからね。雲居雁の姫君がおられれば相当違うと思います。それで内大臣さまも近いうちにお返ししますってはっきり仰ったそうです」

侍「よかったじゃん!三条宮に戻ってくれば夕霧くんも来やすくなるもんね。こうなったら何が何でも初恋を全うしてサッサと結婚せい!って感じだわ」

せ「そうですね、せめてそちらはお幸せになってほしいです。内大臣さま、近江の君の件でほとほとお疲れのようで、もう娘はコリゴリ……私は娘を持つ器じゃなかった……って凹んでおられるみたいです。大宮さまをお慰めに行ったはずなのに、逆に愚痴を聞いていただくっていう」

右「やっぱりいざとなるとお母様なのね男は」

侍「大宮さまも大変だあ。早く安心させてあげてえ」

せ「緊急報告は以上です。また何かわかりましたらお知らせしますね♪ではまた!」

右・侍「じゃあねえー!」

 

「とりあえず夕霧くんと雲居雁ちゃんは大丈夫そうね。時間の問題って感じ。あとは玉鬘ちゃんなのよね……」

「ねー。もうすでにヤバイ感じ満々。野分は通り過ぎたけどまだ大嵐中、みたいな」

「うん、もうひと荒れ来るわねこれは」

「ぶるる……」

参考HP「源氏物語の世界」他

<行幸 一 につづく

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