胡蝶 二
「ねえねえ右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん」
「この間の、六条院での舟楽凄かったんだってねー。夜中までぶっ通しライブで、明け方まで飲んでたんだって!」
「あー知ってる、すっごい評判になってるもん。少納言さんもせっちゃんもお接待大変だったろうね。秋の町の女房さんたちがお舟乗って春の町に来たっていうし、そりゃもうお互い気合入れまくってバっチバチよね」
「表向きは和やかだったらしいよ。貴女のその色襲ステキねー、あら貴女こそ髪がツヤッツヤー何使ってるー?なーんてかんじで。却って怖いー!でね、例の玉鬘ちゃん。この舟楽で一躍存在が知られちゃったみたいでさ。あのイケメン大臣の隠し子、しかも超超大事にしてるらしい、ってことは、ゼッタイ 美 人 確 定 イエー!って男どもがみんな色めきたっちゃって大変らしいよ」
「六条院って今まで、女房さん達以外に独り身の若い女子っていなかったもんね。明石の姫ちゃんはまだ小さいし、大きくなったら春宮妃ってもう決まってるようなもんだし。どうせ王子も面白がってたきつけてんでしょ」
「少納言さん情報だと、兵部卿宮さま……帥宮親王さまね、王子ときょうだいの。この方がそうっとうお熱みたいよ玉鬘ちゃんに。顔も何も見てないのにすごいよねー平安男子の妄想力って。酔っぱらったふりして、ああ辛いーつらみー切なくっていっそ淵に身を投げてしまいたい……とか王子にしなだれかかってたって」
「あの方、たしか北の方が三年前に亡くなってるわね。身分的にも経済的にも人間的にも問題ないけど、ちょいお歳が離れてるかしらん。三十代前半くらい?ああでも玉鬘の姫ももう二十一か二十二だっけ?平安時代的にはやや行き遅れって感じか」
「ぐさっ。永遠の二十代設定にもブーメラン来ちゃうじゃん!ま、アタシたちはキャリアだからいいんだもんね!ってそれはともかくとして、昔からの仲良しなんだからサッサと話まとめてあげればいいのにさー、王子ったら、淵に飛び込む程の価値があるかどうか、よーく見極めないと!そーっとねそーっと!とか焦らしまくってニッコニッコらしい」
「出たわね王子のイケズ。目に浮かぶわ、計 画 通 り……!ってどっかの漫画みたいなゲスい笑顔の王子が」
「イケメンよねー(うっとり)」
「この流れでどうしてそういう感想に(笑)しかし王子、いったいいつ実のお父様の内大臣に玉鬘ちゃんのこと伝えるつもりなのかね。全然その気ないっしょその調子だと」
「ホントそれ!現にアレよ、内大臣の御子息がたがやたらと夕霧の中将にまとわりついてるらしいよ。まだ何か画策してるわけじゃないけどね、地道に調査的な?実のきょうだいとも知らずにさ」
「逆に夕霧くんの方は本当の姉君と思ってるんでしょ?ややこしいわねホント。いい加減にしとかないと、取り返しのつかないことになったらどうすんの。というか、王子自身が危ないでしょどう考えても。父という名目さえあれば二人っきりで話してても怪しまれないもんね。普通じゃありえない関係だわ」
「そ、そうね王子が一番危ないっていうのは同意。むしろ今まで何も手を出してないのが奇跡みたいな?いやちょっと待って、手を出したら出したで別に良くない?最高権力者にして超絶イケメン、住まいは京で一番の豪邸、先々何の心配も要らないよ。アタシだったらこれ幸いと甘えちゃうなー☆」
「いやいや侍従ちゃん、私たちみたいに行動自由な女房クラスなら気楽でいいけどさ、玉鬘ちゃんの立場だとそうはいかないわよ。お母様の昔の恋人っていうのは置いても、他の女君たち、特に紫上と完全にライバル関係になるわけだからさ。今良くしてもらってるぶん辛いし、一気にいたたまれなくなるでしょ」
「そうね、そうかも。アタシたちと違って、嫌になったらやーめた!っていうの出来ないもんね。いまや一緒に逃げて来た人たちの生活もかかってるしさ。……うわ、考えてみたらつら!これこそホントのつらみ!」
「今玉鬘ちゃんに付いてるアッチの右近さんも困るだろうねえ。今まで紫上に仕えてたわけだし、少納言さんだっていい気はしないわよ。女房さんたちの人間関係までグッチャグチャになりかねないわね」
「ヤダこっわ!不動の女子会メンバーに亀裂の危機?!ヤッバ!」
「王子の今の重ーい立場と、未だカルーイ理性に何とか頼るしかないわね」
「そ、それは……ああ!ダメ無理!いくら長年のファンといえども、いやファンだからこそ、不安しかないわ!ハイ、じゃあ右近ちゃんも皆さんもご一緒に、」
嵐 の 予 感。
参考HP「源氏物語の世界」他
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