おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

朝顔 六

2020年8月20日  2022年6月9日 
紫上の髪の具合や顔立ちは、亡き人を思わせて慕わしい。余所へ移っていた心ももはや戻って来たようだ。鴛鴦がかすかに鳴く。
「かき集めた昔が恋しい雪の夜に
 あわれを添える鴛鴦の鳴声よ」
 
 そんなことを思い出したせいだろうか。眠りに落ちた後、夢か現か、ぼう……と藤壺の女院の姿が現れた。酷く怒っている。
「漏らさないと仰ったのに、浮名が隠れなく流れ出し、恥ずかしく苦しい目に遭っています……つらい」
 返事をしようと口を開けるが声が出ない。気持ちばかり焦るうち、何ものかが覆いかぶさってくる。息が詰まる。
「もし、もし……どうかなさいました?」
 紫上の声に目が覚めた。
 今のは夢?夢なのか?すぐそこに、手が届くところにあの方がいたのに。
 あまりにも口惜しく、どうしようもなく胸が騒ぐ。いつのまにか頬がぐっしょり濡れそぼっていた。
 明りもない暗闇で、紫上には汗なのか涙なのか判別できない。身じろぎもせず横になっている。
「ぐっすり眠れないままにふと目覚めた寂しい冬の夜
 見た夢の何とも短かったこと」

 短すぎる邂逅はかえって悲しみを呼びさました。ヒカルは朝早く起き出し、取るものも取りあえずあちこちの寺で誦経などをさせる。
「苦しい目に遭っているとお恨みだったが、よほど思い余ってのことか、私の前に現れたのは。生前はしっかり勤行なさって罪障全般を軽くされていたご様子だったのに、ただあの一件で現世の濁りをすすぎ切ることが出来なかったとは」
 順を追って考えていくほどに悲しみは募る。
「出来るものなら、誰も知る人の無い世界にいらっしゃるあの方にひと目逢って、その罪も代わって差し上げたい。だが私が、故女院のためにと取り立てて何かの法要を催せば、世の人々は不審に思うだろう。帝にも邪推されることがあるかもしれない」
 躊躇う間も、阿弥陀仏を心にかけて念誦する。「来世は同じ蓮の上に」と思いながらも、心のどこかで叶わぬことと知ってもいる。
「亡き人を恋慕う心にまかせてお尋ねしても
 影も見えぬ三途の河のほとりで迷うだろう」

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「ねえねえ右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん」
「ホントに王子ってさあ……見えちゃうヒトなのねつくづく」
「ああ……まあ、感受性の強い人ではあるわよね。この場合はわかりやすいじゃない。寝る前に紫上と話してたからじゃん?帝にバレたっぽいのも何気にショックだったろうし、自分自身の不安と罪悪感が亡き女院さまの姿を借りて出て来たってだけでしょ」
「右近ちゃんたら冷静ー。そういわれるとそうとしか思えないわねん。何か安心したわ」
「それにしても典局さんホント凄いよね。まるで観て来たみたい」
「ヤダー右近ちゃん、これはスピンオフよ独自解釈よ……っていつもと逆じゃん」
「侍従ちゃんとしては、若干ショックじゃない?この内容。王子、完全に痛い中年じゃん」
「エエエーそこまで言うー?た、確かに平安時代で三十過ぎれば完全にオジサン……いいのよ別にオジサンでも!王子まだまだカッコいいもん!」
「あーごめんね。割と褒め言葉なのよ私的には。やっと王子が私のストライクゾーンに入ってきたかなーなんて」
「マジで!!!ヤッバ!!!ライバル登場?!」
「いやーね、ジャンル違いだから全然。それより、とうとうこの話も世代交代って感じよね。次の巻って王子の息子ちゃんの恋バナよ?早くない?」
「嘘でしょ?!ついこの間生まれたばっかじゃん……あああ言っちゃった、こんな、オバチャンが近所の子とかに言いがちなセリフを」
「まあ私たちはサザエさん方式で年取らないから。永遠の平安若手OLだから。気にせずいきましょ♪」
「りょ、りょーかい!」
参考HP「源氏物語の世界」他
<乙女 一 につづく
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