おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

須磨 十三 ~オフィスにて~

2020年5月17日  2022年6月9日 
神鹿 竹内久一作 C-439
「ねえねえ右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん」
「なんとなく呼んでみただけ。ああーなんか落ち着くわー」
「このところお客が続いたからね。ところでさ、知ってる?(小声)須磨とのお手紙、親族以外は全面禁止になったって」
「ひっ……マジで?もしかして、中納言ちゃんバレたとか?」
「ううん、そこバレてたらこんなんじゃ済まないよ。どうも親王さまたちとか他の上達部とかがお見舞い送ったり、漢詩文をやりとりしてたらしい。で、その出来がすっごくよかったもんだから評判になってね。大后さま激おこ
「ええー……なーんか常に怒りっぱじゃんあの方。そのくらいいいじゃんねー」
「『本来、朝廷の咎めを受けた者というのは何事も慎んで、心のままに毎日の食事を味わうことさえ憚るべきというではありませんか。豪奢な邸に住み、世の中を嘲笑っていたような者ですよ? まるっきり『鹿を馬』と言った佞臣に対するお追従と同じじゃないの!』……ダメだ、難しいわあ。中々王命婦さんや中納言ちゃんみたいに真似できない」
「あの人たちイタコだから。右近ちゃんもいい線いってるよ、言い方とかそっくり。でも威圧感が足りないかな。ヤバいよねあの圧は!……ところで、その馬鹿エピソードって何だっけ?」
「史記の『鹿をさして馬となす』ってやつ。秦の国の趙高が、二世皇帝の前に鹿を引き出して、これは馬だって言ったのよ。当然、いやいや鹿ですやろなに言ってるの、ってなるじゃない?でも一部の人たちは趙高を恐れて『ええ馬ですね』って同調した」
「あっ思い出した!で、否定した人は粛清されたんだよね!」
「そうそう。自分に『忠実』な人だけ残した後、クーデター起こして国を乗っ取った。つまり大后さまは、ヒカル大将は趙高と同じようなものである・なのにうかうかといい顔して、アンタたちもあっち側と見做されたいの?って言ってる」
「怖すぎ……」
「王子を反逆罪にしたくて仕方ないんだよね。ていうか、あたくしは反逆者と捉えてるから、味方する奴は皆朝敵と見做すがよろしいか?なのよね。それを言いたいがためにこの故事を選んだ、そのセンスはすごいと思うわ。かなり頭のいい人ではある。だからこそ怖いんだけど」
「ぶるる……」
「この先、京から須磨への手紙は激減するわね。だからウチの兄にかくかくしかじかって書いて出したら、さすがにソッコーで返事来たわ」
「えっそうなの?!どんな感じだって?」
「まあ相変わらずみたいよ。海で塩を焼く煙と柴を焼く煙の区別がついてなくて、おおー!初めて知った!って感激して歌詠んだり、皆で合奏したりしてるって」
「呑気ねえ王子。まあそういうところが王子なんだけど」
「ただ、もっと都からのお手紙欲しいなーとか、やっぱり紫上呼んじゃおうかなーいやいやダメだ、とかホームシックっぽくはなってるから、これからが大変かも」
「いやホント、こんなに長く女っ気ゼロで過ごしたこと、それこそ人生初なんじゃないの王子。今なら誰でもイケる気がするわ。アタシ、思い切って行っちゃおうかしら(目キラキラ)」
「いやいやいや、粛清されちゃうから!私も絶対巻き添え食らうから止めてね!」
「だよねん。しょぼん……」

閑話休題。
 何かで「平安貴族は実は非常に勤勉だった」という説を見かけましたが、私も全面的に賛成です。大体和歌を作るって時点でヤバいです。当意即妙にTPOを弁えつつ故事や漢詩も頭に置いて場に適した内容を三十一文字に凝縮する、しかも筆で一発書きですよ?どんだけかと。ワープロ慣れしたひ弱な現代人には、もうそれだけで無理ですごめんなさいってなります。
 この「須磨」という段は特にそうなのですが、暇にあかせてヒカルがやたらと歌を詠んだり漢詩文など朗誦したりする場面が多く、臣下の方もちゃんと理解して即応してたりするのが本当に凄すぎです。絵を描いたり楽器を演奏したりはもちろん、出来上がった作品や音楽を評価もできる。だからこそ何も無い海辺での蟄居生活にも耐えられる。教養って大事だなあと実感します。昨今のコロナお籠りも、平安貴族なら楽勝なんじゃないだろうか。連歌大会とか漢詩文コンクール(講評付き)とか楽しく開催しそう。
 とはいえ、人生初!尽くしのヒカル、フラストレーションは相当溜まってきております。さてさてどうなるか。ということでもう少し「須磨」続きます。

参考HP「源氏物語の世界」他
<須磨 十四につづく>
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