花散里 二 ~オフィスにて~
「なあに侍従ちゃん」
「えっと……ナニやってんのヒカル王子は。今それどころじゃないんじゃないの? てか何でこんなにあちこちに女がいるわけ?」
「それどころじゃない事態で疲れたから、普段疎遠な癒し系の元カノだか何だかのところに行ったんでしょ。王子の守備範囲の広さは今に始まった話でもないし、特に驚く事でもなくない?」
「いや……さすがにこれはビックリしたわ。まさかあの地味……いや奥ゆかしい麗景殿の女御さまの妹さんにまでチャッカリ手出してたとか、ヤバくない? どんだけマメなの」
「まあ手出してたっていっても、さすがにお手紙のやりとりくらいでしょ。ってあさきゆめみしにも描いてたしそういうことにしときましょ☆」
「右近ちゃんたら大人の対応ー。アレよ、中川の辺りってさ、空蝉さんが住んでた所じゃん? 受領クラスの人たちが結構多いエリア。そこに更に別口の元カノがいたってことは、あの騒ぎの後もこっそりあの辺に出没してたのねん」
「多忙だろうにね。そこはすごいと思うわ素直に。現代の草食系男子とは対極にある超肉食よね」
「チラっと漏らしてた『筑紫の五節』、何とかの節会で舞ってた超絶カワイイ子でしょ。すぐお父さんについて大宰府に行っちゃったけど。ホント見逃さないよねえ」
「侍従ちゃんも十分すごいわよ。よく覚えてるね」
「いやー五節って選りすぐりのかわいこちゃん揃いじゃない?毎回楽しみにしてるんだよね。そんな中でもダントツ!センター必至!の美少女だったからさ」
「なるほどね。侍従ちゃんの守備範囲も若め方向に広いわね」
「まーアタシは観る専だから!美しいものなら何でもオケ!ってそんなこと言ってる場合じゃなくて、王子どうするのかしら今後……絶対にタダじゃ済まないよね?大后さま激オコだよね?」
「多分だけど、誰かに言われる前に自分から何か言い出すかもね」
「何かって何ー?!ヤダ怖い……」
「まさに台風の目的な位置づけね、この巻は。もう嵐の真っただ中にいるのよ私たち」
「ふおお……」
閑話休題。
さてこの謎に短い「花散里」ですが、後のヒカルの運命を踏まえて読むと、しっかり前ふりとしての役割を果たしています。怒涛の展開から一転このまったりとした雰囲気は、次にやってくる更なる怒涛への布石にすぎません。
それにしても「花散里」でのヒカルの穏やかで割り切った感じ、「賢木」とはまるきり別人です。藤壺中宮に縋りつくもすげなく断ち切られ、ある意味狂った状態にあったヒカルは兄帝の寵姫を奪ったばかりか、遂に右大臣その人に現場を押さえられるという失態を犯します。色々と緩い平安時代といえども流石に常軌を逸しすぎて、もはやそうなる未来を予測して故意にやったのではないかと思えるほどです。ここまで来てはじめて毒気が抜けたヒカルは、適度な距離感のある第三者的な立場の年配の女性および元カノに会いに行く。無意識なのかもしれませんが、自分自身を取り戻し整えるために必要な行動だったのではないでしょうか。
次の巻からいよいよ舞台は京を離れます。地方勤めの父を持つ紫式部が、ヒカルの田舎暮らしをどう描くか、まことに興味深いところです。
参考HP「源氏物語の世界」
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