花宴 三(オフィスにて)
「なあに侍従ちゃん」
「さっすがに今回は……ヤバない?!よりによって春宮さまのお気にの六の姫を……えっとコレもう女御さまとしての入内って無理?王子ったら何考えてんの?」
「そりゃ、バレなきゃいいやくらいにしか思ってないんじゃない?」
「バレるに決まってんじゃんスッカスカなんだから平安時代の家屋は!お側にいた女房さんたちなんて絶対気づいてるよ!うわーんどうすんのーヤバーイ」
「侍従ちゃんが動揺してどうすんの。あからさまに現場を押さえられない限りはだいじょぶよ。嫌ですわー根も葉もない噂ですのよオホホホで押し通せば。そこはほら、ゆるふわ平安時代なんだからさ」
「右近ちゃん冷静……ていうかさ、弘徽殿の女房さん達もちょっと脇が甘すぎじゃなーい? 若い未婚の娘さんがいるのにそこまでガバガバって、藤壺は勿論のことウチの局だってあり得ないよ正直」
「んーあそこはねー。格式重視でお堅い左大臣家と違って、以前からちょっと軽いっていうかウエーイ系っていうか、全体的にあんまし重みがないんだよね。例の六の姫ってセンスもいいしそこそこ教養もあるし超美人らしいけど、そもそも夜中にあんな端近で単独行動してる時点でダメでしょ春宮妃候補ともあろう人が。政界2トップの片割れの御令嬢として、生まれてからずっと甘やかされまくってて分別も自制心もゆるふわ☆なのかもね」
「右近ちゃんてば辛辣うー! 六の君って弘徽殿の女御さまとは腹違いの姉妹だっけ?見た目も性格も対照的よね。このこと知ったら怒るなんてもんじゃないだろうなあ……他人事ながら怖いわ……」
「アレよ、得てして普段キッツイことばっか言う人って、肝心なとこで詰めが甘かったりするものよね。今回のコレも、超盛り上がった宴の後、皆の前で藤壺より先に帝のお召しがかかったことで舞い上がっちゃったんだろうね。そんなの、春宮の母后なんだから序列としては最優先でトーゼンの話なんだけど」
「何かにつけてこれが右大臣家の威光ってもんよ!てイキっちゃうとこがねー何だかねー。自然にサラっと澄ましてればいいのに。それでただでさえ緩めな弘徽殿がますます手薄になっちゃったわけで」
「まーそうは言っても一番悪いのは勿論ヒカル王子なんだけどね」
「ワルイよねー(笑)でもそこが魅力でもあるのよね。……あっ、そういや少納言さんが言ってたんだけど、ヒカル王子も久々に左大臣家に帰ったみたいで、その前に二条院に一晩だけ寄ったらしい」
「流石に浮気した直後に正妻さんのところには行けないもんね。紫ちゃん喜んだでしょ?」
「それがさ、案外クールだったって。普通に挨拶して普通に送り出して、ぐずることも拗ねることもなく」
「成長したのね。女の子は早いわねーこの間までお人形遊びしてたのに」
「いやお人形遊びは継続中らしいけどこっそり(笑)王子の前で出さないくらいの分別はついたらしい」
「なるほど(笑)着々と平安女子としての嗜みを身に付けてるわけだ」
「あーああーうーらーやましいいい!(定期)」
巻き上がる御簾。
「あなたたち、仕事は?(定期)」
典の局が顔を出す。
「は、はーい」「き、今日中には必ず!」(定期)
「口より手を動かしてね。ところで、これなんだけど後で藤壺の王命婦さんに渡しといてくれないかしら。急ぎではないから物のついででいいんだけど」
巻物が置かれる。
「あ、じゃあ私が行きます、ちょうど用事もあるので。明日のお昼くらいでいいですか?」
「ええ十分よ。よろしくね右近さん。では、ちゃんと終わらせるのよ」
典の局去る。
「……え、何コレ。もしかして仕事じゃなくプライベート?! あの二人いつの間にそんな仲良しに」
「『桐壺』って書いてるよ。昔の話じゃん」
「まさか新たなスピンオフ?!」
「違うでしょ。単に忘れてただけでしょおさ子が」
「ええーありえないしー」
…………
というわけで突然ですが「花宴」のあと「桐壺」をやります。いや忘れてたわけじゃなく、当初解説で済ませればいいやくらいに思っていたのですが、ここまで来てふと読み直してみたら案外重要なことが沢山書いてあったのでこれはヤバいと……
場当たりで本当にすみませんすみません(定期)。とりあえず次は「花宴」の最終話をお楽しみください。
参考HP「源氏物語の世界」
「窯変 源氏物語」橋本治
<花宴 四につづく>
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