おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

「天翔る」「橋本左内」「天狗争乱」

2018年12月27日  2019年7月3日 
幕末シリーズ三冊一気読み。そのきっかけはこちらの
「福井150年博」。
実際に足を運んだのは福井県立歴史博物館のみだけど、そこに置いてあったこの冊子があまりに素晴らしくて熟読してしまった。永久保存版。

で、その中に
「幕末の福井を描いた小説」を紹介してるページがありまして、その三冊をまるっと読みました。解説は以下の通り。


「天翔る」(あまかける)葉室麟

葉室さんはお初。すごくシンプルで端正な文章で読みやすかった。もう亡くなられているのは誠に残念。
実を言うと、一冊目のこの本を読んだ直後は松平春嶽の凄さが今一つわからなかった。特に後になればなるほど引き気味に、目立たないよう動いている印象だったので、安政の大獄で橋本左内はじめ有能な部下を多く失ってしまったことが相当トラウマになったのかも…と思ったりしたが、以下二冊の読後はまた違う感想を持った。あえて表舞台に立たず功を追わず、個人としての感情は極力抑えひたすら公として動くには、相当の知性とバランス感覚が無いと難しい。幕末から延々続く水戸藩の悲惨をみるに、あの時代に「中庸」でいることの価値と効果ははかり知れなかったろう。大河ドラマにするには少々厳しいかもしれないが、まぎれもない名君だと思う。
ただ一橋慶喜を推してしまったのだけは痛恨のミス……やむにやまれずなのだろうが。

「橋本左内」白崎昭一郎

橋本左内のみならず、黒船来航の少し前から大政奉還に至る直前くらいの流れを詳細に描いておられます。二段組で字が小さいので中々大変ですが、読み出すとぐいぐい引き込まれていきます。登場人物たちの、知性溢れる言葉遣いがひたすらに美しい。作者は地元の方らしいが、その圧倒的な知識量と語彙力、構築力には脱帽。
それにしても安政の大獄における左内の死罪は明らかに苛烈すぎ。若い才知と人としての徳の高さに嫉妬を受けたか、危険とみなされたか。存在感の大きかった春嶽に対する面当ての意味もあったかもしれない。とにかく水戸藩内でのやった・やられたの派閥争いの犠牲になったのは確か。ほぼ私怨といってもいいと思う。大変に勿体ないことをしたものだ。

「天狗争乱」吉村昭

重鎮、さすがの安定感。他の作品もそうだが、この方は何しろ事前調査が凄い。尊王攘夷思想と水戸藩の内紛が生んだ悲劇・天狗党の話は恥ずかしながら全く知らなかったので衝撃だった。
移動と通信に現代では想像もつかないほどの時間と手間がかかった時代、正しい情報を得ることは非常に難しかった。通常の手続きを踏むだけでも大変なのに、まして途中で悪意を持った輩が握りつぶせばアウト。真意が伝わるべき相手に正しく伝わったのかどうかすら知るすべなく見切り発車で動くうち、いつの間にか幕府に弓ひくものとして追われる身になってしまった天狗党の運命は、そのまま瓦解していく江戸幕府のそれと重なる。
かれらを冷酷に見捨てて世間のそしりを受けた徳川慶喜は、幕府を終わらせることは全うした。英明の誉れ高かった慶喜、徳の無さは圧倒的だが、だからこそ他の誰も成しえない思い切った決断と実行とが出来たのかもしれない。サイコパス感がすごい。

このままの順で読んだが大正解。上から順に濃くなっていく。「天翔ける」で福井藩の名君・松平春嶽を知り、「橋本左内」で大きな流れと詳細を知り、「天狗争乱」でさらに掘り下げ動乱の壮絶な一例を知る、といった感じ。絶妙なセレクトだと思う。この三冊のお蔭で今まで今一つ興味の無かった幕末に俄然惹きつけられた。次は「桜田門外」を読もうっと。

<おまけ>
天狗党、何と池田町にも来てた!鯖江も通ったらしい。
最初は略奪や殺人など起こした部隊もいたが、このころは全軍を通して極めて規律正しく、泊りや食事の代金、調達した物の料金も全て支払い、出発前には掃除までしていったという。迎える方も手厚くもてなしたそうな。ここ、ちょっと行ってみたい。 にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へ
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