おさ子です。のんびりまったり生きましょう。

文書行政の漢帝国

2018年11月14日  2023年9月13日 
怒涛の忙しさがやっとひと段落したので、ちょっと前に読んだ学術本の話をば。

 
「文書行政の漢帝国 木簡・竹簡の時代」 冨谷 至

梗概…は無理なので(笑)軽く説明。要するに古代中国において公的文書として使われていた木簡や竹簡についての研究本です。494頁という厚さにひるみそうになるが、そこは参考文献や例文にかなりのボリュームを割いているせい。文章は極めて平易で読みやすいです。
実際の木簡・竹簡の画像と書かれている文などふんだんに載っているが、堅苦しい公文書ばかりと思いきやそうでもない。同じ字の練習をせっせとしていたり、かなり砕けた感じの手紙だったり、叩々頭々とか絵文字のm(__)mみたいな表現もある。何千年も昔の生活や文化が、木や竹の切れ端に残っているって胸熱だ。今の時代のデジタルデータは比べ物にならないほど膨大だけど、さてそれらが未来の誰かにどの程度届くのか?と考えると何とも心もとない…ひょっとして全部消えることもあり得るし…。
この著者さんも、データベース化された資料を駆使してこの本を書いているわけだけど、古文書や書籍を全部読み込んできた先人に比べると得られていないものがある、などと感じているらしい。積み重ねる中での気づきとか、その時代の空気を感じるとか、そういうところかな?
ただ、ネットを探せば多種多様な情報に短時間でアクセスできる現代は、人類がかつて経験したことのない状況だ。頭がよく情熱のある人が、これまでかけていた手間と時間を代わりに振り向ける何かが、どういうものになっていくかが少し楽しみではある。

以下、まるで大学の講義ノートの体なので、興味ある人だけさらっと見てみてくださいまし。

〇「紙」に完全にとってかわられるまで、木簡・竹簡はその特性を生かし、さまざまな情報をその目的に応じたやり方で運んでいた。
あまりに細分化され、あまりに完成度の高いシステムであったため、維持できず廃れてしまったという。

長さ:一般に長い方が上級。権威を示すこともあり。
形態:厳重に隠す場合と、あえて運ぶ者にも内容を見せる場合があった(露布)。情報をより速く伝播させる目的。
綴じられる際に抜けたり順番が入れ替わったりすることもあった。
(綴じ紐が切れる程何度も読み返し熱心に勉強する的な話があるが、その紐が本来使われるはずのない革製であるということから、その話が書かれたのは紙が普及して木簡が珍しいものになった時期と推測される。)

〇書記官への道
 急就篇:役人が行政文書を作成するときに学ぶ識字書。
 千字分、論語:初学者が文字を学び教養を得るため学ぶ教科書。

〇書体、書法、書芸術
 楷書:模楷の書、手本とする書体という意味で、一定の書体を指しているわけではない。
 草書:変形の美。隷書を美しく書くという風潮。
 後漢100年前後に、草書・隷書といった書体を意味する語が成立。書芸術が確立した。
 文字を習得する→未知の文字を新たに覚えること
 文章を習得する→書物のある文章を暗記するため書く
           →文体・文章の書き方を習う
 書体を習得する→美しい文字を書くため
           →特殊な書体・異なる書体を修得

〇常套句…記号的な使用法:画一性・威信を賦与・視覚効果
「急」→急ぎ
「有書」→他に書類あり…別紙参照的な使い方
「傳」→通行証明書、発行文書がそのまま証明書となる

〇民の統制
傳信→パスポートの役割。目的は旅行者の監視、不正使用は罪に問われた。
無くした場合、再発行のようなこともしていた。
(外国に住み着いてスパイのようなことを行う者がいたらしい)
役人に全てをさせて、国民は一切関与せずともOK。さすれば生活の安定は保障される。
関所は「バリヤー」ではなく、「チェックポイント」であった。

〇完成された文書行政
文書による人・物の流通・移動の管理と検閲のシステム
徹底した副本作成(バックアップ)
→機能させたのは簡牘(木簡・竹簡のこと)という書写材料
  文字、側面利用、刻歯、封泯匣、長さによって権威を表す
  檄(多面体の長大な簡)、露布の形等、視覚に強く訴える紙にはない三次元的な機能をもつ

完全な制度とその執行は、完全であるが故に継続性がなくなり、徹底するが故に実行困難になる。取扱いがより簡便な紙に取って代わられたことにより、その多種多様な機能が文書行政に生かされなくなった→国の弱体化に繋がった

<研究者の心構えとして>
「その時代に自分が住んだとして、違和感なく生活できねばその時代はわからない。それができるか?」(梅原郁)
ー記事をシェアするー
B!
タグ

コメント

notice:

過去記事の改変は原則しない/やむを得ない場合は取り消し線付きで行う/画像リンク切れ対策でテキスト情報追加はあり/本や映画の画像はamazonまたは楽天の商品リンク、公式SNSアカウントからの引用等を使用。(2023/9/11-14に全記事変更)

このブログを検索

ここ一か月でまあまあ見てもらった記事