末摘花 四(オフィスにて♪)
「なあに右近ちゃ……じゃないっ、大輔の命婦さんじゃないですか! どーしたんですか?」
「お久しぶりね。お元気そう」
「……な、なんか……痩せました? いや前から細かったけど……えっと」
「やっぱりわかる? やつれてるわよね私。嫌だわ」
ふふ、と力なく笑う大輔命婦。
「いやでも! むしろさらにエロく…いや色っぽくなられて素敵! 羨ましいですっ!」
「ありがと」
「今日はどんな御用ですか? 右近ちゃんなら今お使いに行ってて、15分もすれば戻ってきますけど」
「ううん、今日はね、侍従ちゃんに御用なの」
「え……(ドキ)」
「ちょっといい? 凝ってるわ」
少し冷たい、なめらかな白い指が侍従のうなじに触れる。
「はうあ!……ああああ、何ですかコレ……ぎもぢいい…」
「うふふ、若いからすぐほぐれるわね」
「……(言葉にならない)」
「侍従ちゃん?」
「はい……」
「実はね、ちょっとお願いがあって」
もみもみぎゅー
「なんれすかあ……なんれもききまふよ……ふわわわわ」
「うふふふふ……侍従ちゃんて、ホントに可愛いわ」
………
「で」
戻って来た右近の隣で、侍従が大きく伸びをする。
「はースッキリ! なにこれすごい、ザ☆大輔命婦スペシャルゴッドハンドパワー半端ないわー」
「引き受けちゃったと」
「うん! まあ、軽いバイトだと思えば!」
「まさか侍従ちゃんが、常陸宮さまとご縁があったとはね。さすがは大輔命婦さん、凄い情報網」
「右近ちゃん、そうなのよ。アタシだって知らなかったもん、あの姫君とアタシが乳姉妹だなんて。ウチの乳母さん、何人も掛け持ちしてたのは知ってるけど、すごいとこに出入りしてたのねえ……そんな伝手があるからって、いきなり中途採用のアタシを姫君の側仕えに突っ込んだ命婦さんも中々だけど」
「案外軽くないかもよ、そのバイト。だって、要するにヒカル王子を手引きするための内部協力要員でしょ」
「あーそれはそうだよ、もちろんわかってるって。仕方ないよ、あの王子が一旦目をつけた女を簡単に諦めるわけない。今までの空蝉さんとか若紫ちゃんとかの話でわかるじゃん」
「命婦さんも相当うるさく責められたみたいね。同情するわ」
「だってさ、その姫君って、全っ然返事しなかったらしいよー。王子もそんなに頻繁にはお文出してないんだけど、フツー何かかんか返すじゃん? 紙に書かなくても使いの人に言付けるとかさあ。いくら引っ込み思案つったってさすがに失礼だし、世間知らずにも程があるってもんよ」
「受け取りっぱなしーの完全無視かあ。それは王子、ムカついたろうね。そんなことされたことないもんね」
「大輔命婦さんに泣きついてきたらしいよ、こうなりゃ意地だ、どうにかしてえって。命婦さんもここに至ってウザいの通り越して、逆にあの姫君にとってはチャンスなんじゃない? て思い直したんだって。ほら、すっごいボロ屋じゃんあそこ。そもそも、父宮さまが存命の頃だって、古臭ーい雰囲気に誰も寄りつかなかったくらいだから、今なんてなおさらよ。雑草ボウボウでどこが入口なのかもわかんないし!」
「そんなところにあのキラキラ王子が目をつけたってこと自体、奇跡みたいなもんだわね」
「そうそう。女房さんたちはそりゃもう大騒ぎよ。何としてもこのご縁はゲットしなきゃ! て感じで」
「なるほどね。ただ、大輔の命婦さんはもうちょっとクールに状況を見てる気がする。
ヒカル王子の、ヤダヤダヤダこのおもちゃ絶対買ってーママー! 状態を解消したい!
→あの姫君に『適当に気の利いたこと言ってあしらう』てことは期待できない
→とすると物越しでも何でもいいから二人を会わせるしかない
→会って話して、お気に召せばおk、身分も釣り合うし大人同士だし無問題!
→お気に召さない場合でも、ヒカル王子ならうまいこと取り繕って何とか角立たないよう終わらせてくれるでしょ!
よってどっちに転んでも、命婦さんはうるさく責められる状態からは解放される。むしろ姫君側からは感謝される立場に」
「命婦さん、姫君が万一にでも傷つかないようにってすごい心配してたよ。優しい人だよねー」
「侍従ちゃん……あなたまさにそのために投入されたのよ。箱入りで純朴な姫君がとんでもない受け答えして王子がドン引きしないように、内側からフォローする役まわり」
「えっヤバい! 超重要な役じゃん! 嬉しい、命婦さんにそれだけ買ってもらえたなんて(ポッ)!」
「侍従ちゃん完全にセンノーされちゃって……大輔の命婦さん、ナイス人心操作」
「いいのアタシ! 命婦さんのためならなんだってやってやるわあ!」
「利用できるものはとことん利用しつくす、しかも本人自らすすんで動くよう巧妙に立ち回る……それが大輔の命婦という女……恐ろしい子……!」
「お仕事うまくいったら、また肩揉んでもらうんだあ♪たーのしみー」
「ダメだこりゃ(笑)」
ちゃんちゃん、
というわけで閑話休題です。
「右近ちゃん」の名を夕顔のおつきの女房から取ったのと同じく、「侍従ちゃん」もまたこの末摘花の段から取っています……ということを途中まできれいさっぱり忘れておりまして……(年だなマジで……)。仕方ないので、「魔性の女・大輔命婦が侍従を常陸宮にねじこんだ」という設定を無理くりつけて、このあと「末摘花」の残りを侍従ちゃんの一人称でお送りしたいと思います。適当ですみません。
>>「末摘花 五」につづく
参考HP「源氏物語の世界」
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