2016年8月12日金曜日

末摘花 一(オフィスにて♪)

「ねえねえ右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん・・・あ、イタタっ」
「あら右近ちゃん、二日酔い? 薬湯いっとく?」
「朝飲んできたんだけど・・・侍従ちゃん元気ね・・・」
「私はお酌してたばっかで実は大して飲んでないのよん。少納言さんの半分、王命婦さんの五分の一くらい? いやもっと少ないかも」
「王命婦さんはザル、っていうか輪っかだから。底無しだから」
「あはは確かに。今朝遅刻ギリで慌てて廊下小走りしてたら、とっくに出勤してた王命婦さんに笑われちゃったよ」
「あの人、初参内から今まで無遅刻無欠勤なのよ。さすがはあの、いついかなるときも全員メイクバッチリ・季節とTPOに合わせたこだわりの色重ね・いかなる相手にも当意即妙の受け答え@藤壺のトップキャリアとして君臨してるだけあるわ・・・イタタ、喋りすぎると痛い・・・」
「右近ちゃん、はじっこに寄って休んでなよ。今日はなんたってウチのお局様お休みだしさ! 仕事も大して無いし、他の皆もくつろいでるし平気平気♪」
「ありがと…そうさせてもらうわ」
部屋の奥で脇息に寄りかかり、うとうとする右近。

人少なな局の中、さらさらと衣擦れの音が近づく。
眠る右近の背中にそっと寄り添い、背中をゆっくり撫でさする。着物を通しながらも、その指が肩甲骨の内側にぐっと入り込む。
あー……なにこれ。なんだか気持ちいい……
夢うつつの右近の首の後ろに、ひやりとした感触。しなやかな指先が、凝り固まったものをゆっくりと的確にほぐしていく。重く淀んだ頭がすっきりと晴れわたる。右近はふーーーっとため息をついた。
「起こしちゃった、ごめんね」
 耳に快い声、覗き込む白い顔。ふんわりと甘い香り。
「…あ。やっぱり…?」
「うふふ、お久しぶり。昨日は随分飲んだみたいね。全身ガッチガチだったわよ」
うーん、と伸びをする右近。
「嘘みたい、頭痛が消えたし体も軽い! ありがとう!」
 どういたしまして、と髪を揺らす。涼やかな目元から、人を惹きつけずにはおかない微笑みが匂い立つ。侍従が気づいて駆け寄ってきた。
「右近ちゃん、大丈夫? …あっ」
「こんにちは。初めまして…よね?」
「侍従ちゃんは初めてね。侍従ちゃん、大輔の命婦さんよ」
「やっぱり! きゃー感激! こんにちは、お会いできて光栄ですう」
「ふふ、ありがとう。こちらこそお会いできて嬉しいわ、右近さんから可愛い後輩のお話はよく聞いていたから」
「いやーん可愛いだなんてそんな! 大輔の命婦さん、お噂どおり・・・いや噂よりずっとずっといろっぽくてキレイー!」
「侍従ちゃん落ち着いて。ほらお茶でもお出しして」
「あらいいのよーお構いなく。ちょっとお借りしたいものがあって寄っただけなの。椿油の在庫あります? ちょっと切らしてしまって」
「ありますあります! すぐ取ってきます! あっお茶もっ!」
 光の速さでその場から消える侍従。
「侍従ちゃんたら・・・いつもあのくらい素早く動けば叱られないのに。ところで椿油はヒカル王子の?」
「もちろん。ヒカルさまったら、ここの他には藤壺と内裏でしか使ってない最高級の椿油じゃないとイヤだって仰るんだもの。数日あれば届くのに・・・ほんと我儘で困っちゃうわ」
「なるほど。さてはまたどこへやらお出かけ? いやね、ちょっと小耳に挟んだんだけど」
「さすがは右近さん、情報が早いわ。その通り、今夜どうしてもってきかなくて」
「あら・・・」
「エエエエエーーー! お、王子とデートですかあっ!」
「侍従ちゃん、声大きすぎ」
「あら、ありがとう。こんなにたくさん・・・いいの?」
「い、いいんですっ。大輔の命婦さんにお貸ししたっていえばウチのお局様なーんにもいわないですから! ていうか、でででデートなんですか?!」
「違うわよ侍従ちゃん。ごめんね大輔の命婦さん、うるさくて」
「うふふ、いいのよ。ほんと侍従ちゃんて可愛い。もっとゆっくりお話したいけど、もうそろそろ王子が戻ってくるので失礼させてもらうわね。今夜の件が落ち着いたら、ぜひ私も女子会に参加させて?」
 大輔の命婦の白くしなやかな指が、さりげなく侍従の肩に触れる。あははははいっ、もちろんっ、とテンパる侍従の顔は真っ赤だ。
「右近さん、またお文でも送るわね。では、ごきげんよう」
 艶然と微笑み、優雅な身のこなしで颯爽と去っていく大輔の命婦。

「はあー、ほんと軽くなったわー体中が。さすが王子も認めるゴッドハンドね・・・、侍従ちゃん、だいじょぶ?」
「・・・(呆然)」
「あの人、指から何かオーラっていうかビーム出てるからね。やられたわね(笑)」
「う、うん・・・ビビビっときた! 来ちゃった! 何あのエロさ! 可愛さ! 近づくとすっごいいい匂いするし声もいい感じにほわーんて、近くにいるだけで何かきもちいい・・・女子だけどあれは惚れてまうわ! 王子、あんな人に毎日お世話してもらっちゃっててなんともないの?!いくら乳母姉妹とはいえ・・・凄すぎでしょ」
「大輔の命婦さんって、皇族の血を引く兵部大輔さまの娘さんなのよね。家柄がいいから内裏にお勤めできて、その上にあの女子力。昔からモテまくりだけど二股とかはしない、常に彼氏が絶えないタイプ。だからこそ王子みたいな、無理筋とはうまく距離を保つのよね」
「なるほど・・・確かに、王子にすぐ夢中になっちゃうような子だったら仕事に差し支えるもんね。うーん凄い、まさにリア充のお手本。で、今夜の件て何?」
「そんなに目キラキラさせないで(笑)王子がまた、例の虫が騒ぎ出したって話だから」
「はあああ? 懲りないわね・・・超絶美女の正妻さんや、超絶可愛い若紫ちゃんがいて、普段はあの大輔の命婦さんがお世話をして、て状態なのにこの上また?」
「お相手は故・常陸親王の忘れ形見だって」
「あーもう! なるほど! またアレよ、世に知られないところにひっそり暮らすじつは身分の高い薄幸の美女、てやつ。そういうのに弱いわよねー男って!」
「・・・んー、まあ・・・そう、ね」
「何笑ってんの右近ちゃん」

<末摘花 二につづく>
参考HP「源氏物語の世界」

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