2016年1月17日日曜日

若紫 六

京の都に帰り着いたヒカルはまず内裏に参上し、近況など申し上げた。
父帝は「えらくやつれてしまったね」と心配顔だ。
ヒカルは、北山の聖がいかに尊い様だったかを、問われるまま詳細に説明する。
帝は、
「本来なら、阿闍梨など地位のある僧にも成るべき人なのだろうな。それだけ修行の功労を積んでいるのに、朝廷には知らされないままだったとは」
と感心しきりである。これであの聖も、何かと引き立てて貰えるかもしれない。加えて世話になった寺の評判もますます上がるというものだ。なんだかんだで、ヒカルも貴族として仕事してるのであった。

そのとき。
光の君!
ちょうど同じタイミングで参内していた、舅の左大臣にばったり会ってしまった。、
いやぁお久しぶりですな! 
私もお迎えに伺おうと思っていましたんですが、お忍び歩きとのこと、邪魔をしてはとご遠慮申し上げておりましたんですよ。
まあ、仕事は程々にして一日二日のんびりお休みください」
言いながらも
「あとで、ウチまでお送りしますからねっ!!
と、釘を刺された。
気楽な自宅に戻るつもりだったヒカルだが、これはさすがに逃げられない。
しぶしぶながらも左大臣邸に連れて行かれるしかなかった。

舅はヒカルを先に車に乗せ、自分はさっと端に寄ってかしこまっている。良い場所をヒカルに譲った形だ。
自慢の娘の、これまた自慢の婿であるヒカルを大事にする気持ちはわかるしありがたくはあるが、その激ラブっぷりは少々、重い
左大臣邸でも、ヒカル様が久々のお越し! ということで気合入れまくり、しばらく見ないうちにあちこち玉のように磨きたて、用意万端整えてあった。こういう感じもまた、いろいろと辛い。

なのに正妻の葵の上、いつものごとく物陰に隠れたまま出てこない。
実父の左大臣が強く言い聞かせてやっとのことで姿を現すが、美しい妻はまるで絵に描かれた姫君のように、じっと座ったまま身じろぎもせず、ただ行儀よくそこに居るだけだ。
思うさま心の内を語ったり、北山ごもりの話をしようにも、何の反応も期待できないのでは甲斐もなく、愛情がわくはずもない。
いまだにまったく打ち解けることなく、よそよそしい気詰まりな相手としか扱われないヒカルは、年数とともに距離が遠ざかるばかりのこの状況に堪えられず、思わず

「たまには、フツーの奥さんらしい態度見せたらどうです?
今回のように私が病でひどく苦しんでいても、お加減どうですかとも仰ってこないのって、今に始まった話じゃないけど、さすがにあんまりじゃないですか?

と言ってしまった。
姫は長い沈黙のあとやっと

「何も尋ねないのは、辛いことなのですか?」

と、遠い目をしながら答えた。こちらを見上げて来たその顔は、美女を見慣れたヒカルすら気後れしそうなほど気高く美しい。
やばいやっぱ超キレイだなこの子ーと思いつつ

「やっと何か仰ったかと思えば……ガッカリですね。尋ねない→訪ねない、という言葉は他人同士が使うものでしょ。凹むなあそういうの。あなたのその、世間体の悪いご対応を、まあそのうち思い直される時が来るだろうと、アレコレ試してきましたが、ますます嫌われてしまったようだ。別に私の命がどうなろうと、どうでもいいんですよねあなたは」

と言い捨てて寝所に入った。
葵の上が入ってくる様子はない。ヒカルも今更一緒に寝よう♪などと誘いづらく、溜息まじりに寝転がっていたがどうにも面白く無い。仕方なく眠いふりをしながら渋々と妻を呼び相手をする。
かくの如くこの夫婦、問題アリアリなのだった。

そんなこんなでヒカルはなおさら、山で見たあの少女のことが気にかかって仕方がない。別れたときよりまた大きくなったろうなーと。
「そうだ、あの若草ちゃんは日々成長する、そういう年頃なんだ。似合わないと言われたのも道理だな。難しいなー普通の女のように言い寄るというわけにはいかないし……何とか算段をつけて、ただ気楽に引き取って、明け暮れ楽しく見て癒やされたい……。
しかし、あの子の父の兵部卿宮はとても品が良いし物腰も優雅だけど、特に見た目がいいってことはないんだよなあ。あの子だけ、なんであの一族に似てるんだろう? 祖母が同じ后だから、隔世遺伝なんだろうか」
縁の深さをしみじみ実感し、どうにかうまくいく方法はないかと必死で考えるヒカル。

翌日、懲りずにまた尼君と僧都にお手紙を出したものの、軽くあしらわれたので悔しくなったヒカル、ついに最終兵器・惟光を投入!
惟光は早速女の子の乳母・少納言との面会をとりつけ、ヒカルの思いを立板に水と語るも、言えば言うほど周囲は困惑(当然)。

「手習いさえおぼつかない幼児ですので……」
とやんわり断った尼君に
「その手習いの、書き散らしたやつでいいから! ください!」
と迫るに至っては、もうどうみてもHENTAIです本当にありがとうございました状態
さすがの惟光も呆れかえって
「ヒカル王子、まだご病気が治ってらっしゃらないんですよ……そのまましばらく左大臣様のお屋敷でみていただいて、よーくお休みになってください。尼君へのお手紙は、すっかり良くなってから、ご自宅に帰ってからのほうがいいんじゃないでしょうかね……」
と主人を諭す。
ヒカルは
「それもそうだね! 待ち遠しいなあ!」
とあくまで能天気なのであった。

参考HP「源氏物語の世界」 
<若紫 七につづく>

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