夕顔 ~右近ひとり語り~ 幕間
「右近ちゃーん!」
「あら侍従ちゃん、来てくれたのねん♪」
「当然じゃなーい。右近ちゃん、スッテキだったわー♪ラストも楽しみー」
「はー、超疲れるー、ひとり語りってすっごい大変。よそ行きの喋り方だしさー」
「ほらほら、差し入れ♪京都黒ゴマ八橋どすえ」
「きゃーありがと。終わったら食べるわ、はあ」
「ところでさ、右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん」
「空蝉さんの話、知ってる?」
「ううん。この間からずっとここに詰めっきりだもん、すっかり浦島太郎よ。何?」
「またお手紙出したみたいよ、王子に」
「へえ」
「今度伊予に下ることになっちゃったじゃない? しかも王子、倒れちゃったでしょ。今出すしかないと思ったみたい」
「なんだかんだで、空蝉さんも女ねー。で、内容は?侍従ちゃん」
「えーとね
『貴方さまの具合のよくないことを耳にして、案じておりますが、わたくしごときがお手紙を出すのはなかなかに憚られますから……
何故手紙ひとつ寄越さない?という問いすら
いただかないまま月日が経ちましたが
わたくしもどれだけ思い悩んでいるか、貴方はご存知ないですわね
『益田』の歌のように、生きる甲斐もない気持ちです』
だって」
「さっすが空蝉さん。王子はまたいそいそと返事だしたでしょ、これ」
「そうそう。あれだけ死ぬの生きるのって言っててさ(笑)ま、そこがヒカル王子の王子たるゆえん。
『生きる甲斐もないなんて、言いたいのはこっちだよ
貴方の残した空蝉(衣)を見るたび、ダメ押しーって感じなのに
そんなこと書いて来られたらまた期待しちゃうよ?
はかない希望だろうけどね』
だって」
「なるほどー。やっぱり今回のこと、結構こたえてんのかしら、さすがのヒカル王子も」
「コタエてんだか懲りてないんだかわからん(笑)だってさー右近ちゃん知ってる? 軒端の荻ちゃんにもねー……」
「えぇえ? だってあの子もうカレシいるでしょ。ほら、なんてったっけ」
「蔵人の少将さん」
「そうそう。ヤダー、あたしほんとに浦島たろこちゃんだわっ。情報通の右近ちゃん、の名が泣くってもんよ。早く舞台はねないかしらん」
「王子さ、ちょっとイジワル心出して、あの少年使って
『死ぬほどあなたのこと思ってますのに、わかってる?』
なーんて言わせちゃってさ、
『ワンナイトラブとはいえ、忘れちゃいないよ♪君はもう忘れちゃったのかい?ちょっと悔しいな♪』
いけしゃあしゃあと、こうよー。しかもその辺に生えてる背の高い荻に結びつけてさ、蔵人の少将に知れちゃうかもー、ま、別にいいだろ♪俺様なら許してもらえるはず、なんて超ゴーマンな態度」
「をいをい……夕顔の巻はまだ終わってないのよっヒカルっ」
「ビョーキは直らないってわけなのよ。でね、軒端の荻ちゃんも、今カレに知れたらヤバいから、なんなのよーと思いつつも、覚えててくれたことはちょっと嬉しい」
「うーむ。で、返事は」
「サクっとね。
『はっきりしないことを今頃ほのめかされても……
所詮わたくしは下荻(=身分低い)ですから全部本気になんてとてもできなくてしょぼん、ですわっ』」
「荻ちゃんらしい素直なお歌ねえ」
「で、王子はまたまた比べちゃうわけ。碁盤の前で差し向かいでいた空蝉さんは、今でも忘れられない、できればもいちどお願いしたい♪って感じだけど、こっちの子はイマイチ軽薄っていうかー、キャピキャピし過ぎ?ま、そういうのも悪くないけどさ♪なんて」
「(ため息)なんつうか……」
「マメ?(笑)」
「というしか、ないわねん」
ビーーーーーーっ
「あら、そろそろだわ。侍従ちゃん席に戻らないと」
「うん。頑張ってねー右近ちゃん♪じゃまたあとで」
「またねー♪」
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