夕顔 最終話 ~楽屋にて~
「侍従ちゃん!」
「お疲れ様ー! とっておきの玉露、淹れてきたわん♪」
「ありがとうー! 持つべきものは友達ねえ(涙)一緒にさっきの八つ橋いただきましょ♪ 侍従ちゃん、そこ座って。はい、お座布団」
がさがさ、もぐもぐ
「ふーん、おいひいー♪」
「お茶にあうわー♪」
「ところでさ右近ちゃん」
「なあに侍従ちゃん」
「ヒカル王子さ、右近ちゃんに
『女はかよわくてでしゃばらず、騙されても気づかない、つまりちょっと頭弱い子がいいよね』
なーんていってたけど」
「あー(笑)まあまとめるとそんな感じだわね」
「はー、ほんと男ってさあ……でもね右近ちゃん。夕顔さんって確かにちょっと天然ちゃんで不思議ちゃんだけど、頭は悪くないよね?」
「そうね。王子のことだってうすうす知ってて知らんぷりして、恨みごとをいうのを楽しんでたわけだから。なかなかいそうでいないタイプかも」
「おバカタレントみたいなもん? なーんにもしりませーん私、と見せかけて実はのらりくらりと計算ずくの対応」
「うんうん。あ、あとね侍従ちゃん……あ、これはいいか」
「え。なになに?言いかけて黙るってやめてよ右近ちゃん。気になるじゃん」
「うーん。こんなこというのも何だけどさ…ま、平安時代だからいいわよね!あのさ、夕顔さんて」
「うん?」
「見える人、だったんじゃないかと思って」
「……な、ななななななにが?!」
「あーあほらーやっぱり言わなきゃよかった。まあ落ち着いて侍従ちゃん。だって、いくらなんでも持病も何にもない若い女性がよ?あんな感じで急に死んじゃうって普通ありえないじゃない?」
「そ、そうね。言われてみれば」
「異常なまでの怖がりっていうのも、実は普段からいろいろ見えてたんじゃないかなあ。だから行くのも渋ってたし、行ったら行ったで廃屋に近い、風水的にも最悪の場所で、それでもヒカル王子のポジティブパワーで何とかなってたんだけど、いかんせん長く居すぎた。だから皆、知らず知らず汚染されてしまった、禍々しいものに」
「がくがくぶるぶる…」
「皆寝ちゃって、ヒカル王子のパワーがオフになってる状態、つまり丸腰のまま、明らかに夕顔さんに対して害意のある物の怪に、半端ない負のオーラを浴びせられたと……」
「ひいいい……」
「どんだけ怖ろしいものを見たのかしらねえええ……」
「…………」
「つまり夕顔さんて、他人から向けられる感情にすごく敏感な人だったんだと思うのね。だからこそヒカル王子の好みだとか、何を望んでるかとかを瞬時に察知して、ハートをキャッチ♪することができたんだろうけど、嫉妬とか憎悪とか、悪い感情も同じように入ってきちゃうんだよね。空気読むのが上手い人って、得てしてそういうとこあるもん。
頭の中将の奥方からはなんとか物理的に逃げ出せたけど、逃げ場のない廃屋で、相手は実体がない物の怪でスルー不可能。強烈な負のエネルギーをストッパー無しでまともに食らっちゃったんだよね。そりゃ心肺停止もするわ」
「…(泣)…そ、そういえばさー! 空蝉さんのとこ、ついに出発だって!」
「あらそうなの? そういや伊予介おじさんが挨拶に来てたわねえ」
「十月頭だって」
「ふーん」
「それでね、ヒカルの君がお餞別を山と贈って」
「まあ、当然といえば当然」
「その中に、空蝉さんが置いていったあの小袿もまぜといたらしいよ。もちお歌つきで。
『もう一度逢うまでの形見の品と思っておりましたが
それもかなわぬこととなりました 袖が涙で朽ちてしまいそうです』」
「ほー。お返しは?」
「あの少年が最後のお使いでね。
『蝉の羽の衣替えも終わった後の夏衣は
返していただいても泣けるばかりですわ』」
「ふむふむ。きっぱりしてらっしゃるわん。さすが空蝉さん」
「きっぱり? 泣けるっていってんじゃん」
「ふっ。このくらいの歌、
『はい、これで何もかも終わりましたわね、おつかれさまでしたー♪』
くらいのニュアンスでしょ」
「あがが。ヒカル最後までつれなくされてっ」
「だ・か・らこそ、忘れられないってわけ」
「ビバ空蝉の術ー♪」
<「若紫 一」につづく>
参考HP「源氏物語の世界」
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