2015年12月4日金曜日

11月に読んだ本 2

残穢(ざんえ)」小野不由美

「リング」を読んだ時、一種の呪いというようなものが無機物であるビデオテープにより一気に、広範囲に伝播していくという発想に感心したが、本作の「呪い」は非常にオーソドックスというか、それぞれのエピソードが昔からよくあるような話であるぶん、身近にじわじわ迫るような感覚で怖い。本人がそれと自覚せずいつのまにか穢れに触れ、理由のよくわからない不安感や恐怖に苛まれた挙句不幸が起こり、さらにその不幸がたまたま近くにいたものを巻き込みながら徐々にひろがっていく。因縁のある土地、とか業の深い家、とかいう言い方をするときの具体的な状況とはこういうことなのだろう。

語られることで、書(描)かれることで、家として建てられることで、何かが発動される。形を得て名づけられることで、実体となり現実世界に影響を及ぼす。新しく家を建てるときにはお祓いをし、重要な局面では大会社の社長でも神頼みをする日本人は、昔からの「穢れ」の感覚から逃れられない。ビジュアルとしてはわかりにくいが、誰もが非常に理解しやすい恐怖を見事に描いていると思う。

「幽」や「新耳袋」を熟読している私としては、あーやっぱりこの話出たか!というエピソードも多く、だからといってそれで白けるとか冷めるとかはまったくなく、逆にいろいろ関連している気がしてきてますます怖い。この本読んだ後風邪引いたしなあ。それも熱も咳も出ないのにただひたすらダルくて。。。作者さんの「夏バテ」に似てるような気も。。いやきっと偶然、ですけどね。映画化されるみたいだけど大丈夫なのか?一気に何かが伝播。。。いやいやいや。

「親なるもの 断崖」曽根富美子

ネットの広告でよく見かける漫画で、ちょっと気になっていたところ、近所の大きな本屋で立ち読み用の冊子を読んだ。三分の一読んだところで購入を決めた(電子書籍)。
青森の寒村から室蘭の女郎屋に売られた四人の少女の運命を描いた大作。日本の負の歴史の現場が、凄みのある絵とセリフで迫ってくる。
正直重すぎて読むのが辛くなるが、単純な善悪の対立はここにはない。人間にも物事にも、絶対的な括りというものはないということを、作者は繰り返し語っている。

四人の中でもっとも波乱万丈で、酷薄な人生を歩んだ梅。ともに売られた最愛の姉は、着いたその日に客を取らされ首を吊る。姉が辿るはずだった道を自分が代わりに、と梅は十一歳にして女郎となる。
そんな梅に惚れ、助けようとする男たちが何人か現れるが、結果として誰ひとり彼女を救えない。梅を女郎にしたのは男であり、つらい仕事の相手も男。唯一愛した男も、身請けしてくれた男も、それは女郎であったが故に出会ったわけであり、根底のところでは男というものを信じていないし、許していないように思う。望まない性行為は、確実に人間を壊す。少々の愛や思いやりで癒されるほど甘いものではない。

何かあったら最後は死ぬんだと心の底で考えていた
あの女郎と地獄を共にすればいいと思っていた
社会主義も反政府主義も女郎を抱くことで解っているような気がしていた
だけど違っていた
おれは間違っていたよ父さん!!

女郎を愛したのならいっしょに地獄に堕ちるのじゃなく
地獄からいっしょに這い出さなきゃならないんだ!
いっしょに生きてやらなければならないんだよ!

そう思ったら…怖いよ
怖いよ父さん…
”生きる”ことがこんなに勇気のいることなんて
父さん…だけど父さん…!!
おれ生きていくよあの女郎といっしょに
生きのびてみせるよ!!

苦労知らずのボンボンだった若者のこのセリフ。命の危険に対峙したことで出たこの言葉は、ある意味梅の真の望みでもあり、二人はこの瞬間完全に理解しあったと言えるかもしれない(梅自身は聞いていないが)。
しかしこの恋人は特高に捕まり、梅は遊郭に連れ戻され、二度と結ばれることはなかった。梅は後に別の男に身請けされ外に抜け出すも、女郎あがりの経歴は消せない。酷い誹謗中傷や侮辱行為が娘に向かうことを止めるため、梅は姿を消す。「いっしょに生きてやる」ことのできる男は、ついに生涯現れなかった。心も体も傷つき壊れた梅が生きる理由はただひとつ、娘の道生を産んだこと。娘の存在そのものであった。

本当のことを知ったとしても
それがすべて真理ではないのだ
もっと深い
もっと重い
もっと遠い
そしていちばん近い自分のいのちの中にそれを見つけていけ

映像化してもいいくらいの壮大なドラマだが、これは漫画という表現方法でなければ真意が届かないかもしれない。脚本にするにはかなり難しい。ともすると「心ならずも遊郭で働く哀れな女性の物語」または「遊郭でしたたかに生きる女性の苦労話」とかありがちな流れに「当時の社会が悪い」「戦争は悪」とかいう単純な価値観が加味されそうだ。確かに国や戦争、戦時体制についての批判めいたくだりはあるが、彼女らの悲惨はそればかりが理由ではないし、理解したり共感したりしたからといって救われるわけでも何でもない。むしろそういった社会的な問題・システムの欠陥をいいことに、都合のいいほうに転んで弱者を蹴落としいたぶる人間がいかに多いか、綺麗事では人は救えないこと、中途半端な情けがさらなる害を為すことにもなるという皮肉、一括りではない個々の現実というものをひとつひとつ丁寧に、赤裸々に描き出しているように思う。

ここまで中身が濃く、複雑な構造の人間ドラマを描ききるには、心身ともにかなり消耗しただろう。室蘭が地元だという作者の、その心意気に敬意を表す。

2 件のコメント:

  1. 同郷よりペタリっっ
    そしてポチッ!
    頑張ってください。



    byブログ村の通りすがり

    返信削除
  2. 恭太さん
    ようこそいらっしゃいませ♪ありがとうございます。
    更新サボりがちですがゆるゆるやっていきますので
    よろしくどうぞ♪

    返信削除