2015年11月10日火曜日

9月に読んだ本

最近いろいろ読みすぎてカオス。

「ペテロの葬列」宮部みゆき
「誰か」「名もなき毒」に続く三部作の最後。以下、かなりのネタバレ注意。

誰もが羨む立場にありながら、ひけらかすことなく、あくまで地味に目立たず、誰にでも誠意を以て接する杉村三郎。誰がみても「いい人」であるのに、なぜかトラブルに巻き込まれる。いやむしろ自分からトラブルに飛び込んでいく。その理由と、顚末が本作で明らかになる。「名もなき毒」では、誠実であろうとする姿勢がかえって毒の触媒になる、というような感想を抱いたが、今度は触媒どころの話ではない。度を過ぎた「善」は、強烈な「毒」そのものだ。

すべてを持っているのに、傲慢なところが欠片も見えない・見せないというのは、いってみれば最大級の傲慢である。そういった振る舞いをする必要性を感じない=自分の敵になるような者はいないと宣言しているようなものだからだ。つまりまったく周囲の人間を相手にしていない。見下すというのとはちがう、もっと悪い。誰に対しても根底のところで関心がないのだ、それはもう酷薄なまでに。
バスジャックの犯人から託された金は、贖罪というよりは、人質全員に対して、各々の良心の問題、生き方の問題を問いかけた。多くの人を巧妙に騙し金をむしり取ってきた犯人が、杉村を「まとめ役」としたのは、単に操りやすくするためのテクニックのひとつだったのか、それとももっと深いところで、杉村の真の姿が見えていたのか。

「まとめ役」という役割は事件後も生きたまま、杉村はいつものごとくそつなく役をこなす。決して押し付けがましくなく、威張ることもなく、できるだけ公正な立場を保って。その結果、終わったはずの事件は、関係者全員を巻き込んで続く。杉村は「まとめ役」から積極的に降りようとしなかった。皆が自分を頼るまま、頼らざるを得ないように立ち回った。

杉村は「名もなき毒」の事件で「家族の絆を深めた」のではない。むしろ家族から逃げるための格好の手段を見出したのだ。前回とは違って家族には全く関係のない事件の「真相を解明する」ことにこだわり、家族は「危険から守るために」という名目で一切関わらせない。その冷たさ・無関心さを早くから察していた妻は、夫との関係性自体を完膚なきまでに破壊する行動に出る。絶対に自分の方を向かない夫に対する、最後のプライドと、最後の愛情表現。復讐では決してない。その関係性からぬけ出すことが、夫の真の望みだったから。

そう、杉村さんってかなりの問題人物だ。意識的かどうかにかかわらず、周囲に知らず知らず影響を与え、操り、結果的に自分の思う方向に持っていく。しかも相手に「誘導された」と感じさせない、あくまで本人の自発的な言動であると思わせる。洗脳というほどではないが、人心操作にとんでもなく長けている。それが人並み外れて善良で、大人しい誠実そうな外見と物腰をもってして、だからかなり厄介で、怖い人だ。
物語終盤での井手とのやりとりでは、誰が見ても嫌なやつだったはずの井手のほうが、よほど人間らしい温かみをみせつけた。冷静に事態に対処しようとする杉村さんのいうことはどうしようもなく正論なのだが、この局面では上滑りするばかり。「きれいごとばかり言って!」井手の感情に任せた叫びが真実を衝いている。

この三部作で、杉村三郎という善良で無害な顔をした「最強の毒」が完成した。宮部さん、是非シリーズ化を。

「サボタージュマニュアル」組織を壊すための工作方法
米国戦略諜報局(OSS)

さてそういう杉村さんの戦略?をマニュアル化したようなこの本。
第一次世界大戦後に各国で活発になったプロパガンダ戦に対応するため米国で創られた組織がOSS(米国戦略情報局)。その後CIAに発展していくこの組織が活動の一環として作った
「一般市民向けのレジスタンス活動支援マニュアル」
だそうである。
そういえばスイスの「民間防衛」にもこの手の対策マニュアルは記載されている。さて日本ではこういう情報戦の重要性は一般市民レベルで認識されているんだろうかと考えるとかなり心もとない。

本の構成としてはちょうど半分に分かれており、前半が内容の説明、本編は後半。それぞれ50~60頁くらいで、すぐ読めるし、わかりやすい。特に本編のマニュアル部分、指示がかなり具体的で細かいのに驚く。すぐに結果が出る大きな動きは、リスクが高い上に目立ちすぎて事が成る前に潰される可能性が高い。故意なのか過失なのか、損失が出るか出ないか微妙なラインを長く、気付かれない程度に少しずつ行うことで大きな組織の瓦解を狙う、というのは相当怖い話だが、実際には人間には感情というものがあるから、これほど冷徹に理性を保って地味な作業を黙って続けてられるかどうかは大いに疑問。してみると、杉村さんみたいなタイプはさぞかし優秀な工作員になれるんだろうなあ。

「年表で読む日本近現代史」渡部昇一

高校時代までの歴史授業では、この辺はかなり駆け足で、ほとんど記憶に無い。実際の入試問題も、出るのは江戸時代以前がほとんどだった。
「年表で読む」と銘打ってあるとおり、明治維新から2014年まで(!)ほぼ一年ごとに見開き二頁で解説してあり、文章も簡潔かつ平易で非常に読みやすい。中高生で十分理解できると思われる。
ので子どもたちのためにも買ったのだが、全然読んでくれません(泣)
まあ、詰め込みを一旦やって大まかな流れを理解してからじゃないと、こういう本の価値はわからないかもなあ。

というわけで言葉だけは知ってるけど細かいもろもろが心もとない大人向けです。

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