4月に読んだの観たのまとめて
ということでまとめてアップ。ネタバレありです。
「1922」スティーヴン・キング
逆に妻が夫を手にかける「ドロレス・クレイボーン」という話もあるが、こちらは殺す理由がDV夫の毒牙から娘を守るためという、ある意味「母としての正義」によるものであるせいか、暗さは感じない。娘には最後まで何も知らされないし、まず妻の方が何者も恐れていない。「子を守る」という、最優先すべき事項を実践した母としてのプライドが、罪の意識を凌駕しているからだ。
対する「1922」は、所詮は物欲や執着心ゆえの殺人(我侭といってもいい)、しかも死体遺棄・隠匿にはなから我が子を巻き込むという最悪のパターンを踏んでいるためか、読者としても同情の余地はほとんどない。非常に冷たい醒めた目で主人公の行く末を見守ることになる。巻き込まれた形の息子とその恋人の死は本当に哀れだが、怖いのはその先。主人公は結局、殺人の理由となった土地も手放し、夢も希望も二度と持つこと無く罪の意識に苛まれながら、しばしの間生きながらえる。一切を失い、闇の中でただ生きていくというのは、どれほど苦しいことなのだろうか。
キングはその作品の中によく「新聞の小さな囲み記事」を入れる。普通に暮らしている人が突然遭遇する不幸、不慮の事故、といったところから物語を見つけるキングの豊かな想像力にはいつも感心させられる。
The Pacific Steven Spielberg,Tom Hanks,Gary Goetzman(2010米)
最初観たのは後発の「ザ・パシフィック」。なぜか息子がハマった。リアルな戦場シーンとマニアックな武器の描写にだろうか。確かに昔テレビでやっていた「コンバット」シリーズは、当時小学生だった兄二人にはストライクど真ん中、女子にも血沸き肉踊る感は伝わったので、気持ちはわからんでもない。実際の戦場では、沸き踊った血肉は吹き飛んでしまうんだが。
素直な感想としては、アメリカはこれだけ戦争でえらい目にあってるのにまあよくも今まで「世界の警察」として軍隊を維持してきたよなあ・・・ということ。今までこういう話がなかなか出て来なかっただけなのかもしれない。あの戦いを体験した人が年々世を去り、年を取り、今語らないと誰にも知られないまま消えてしまう、そういう危機感もこの壮大で残酷なドラマを作らせたのかもしれない。
徹頭徹尾、アメリカ兵の目線から描いているので、日本側の事情とか兵士の思いみたいなものはまったくといっていいほど出てこない。ただ日本人としては、補給が遅れつつもちゃんと前線の兵士たちに届くあたり、悲惨な状況で戦わざるを得なかった我が国の兵隊さんたちの苦労が偲ばれて複雑だった。
ひとつ印象に残ったのは、雨で人は狂うこともあるというエピソード。熱帯雨林地方の雨季というのは、半端無く雨が降り続くらしい。テントはあるものの防水は完全とはいかない。洗濯はおろか着替えもままならずほぼ四六時中ずっと濡れ続けるというのは、思っている以上に精神をやられるらしい。私の大叔父はフィリピンで亡くなった(と推定されている)が、こんな厳しい気候の中で心身ともに痛めつけられ、病んでいったのかと思うといたたまれない。負け戦の混乱の中で、いたしかたない事情もあっただろうが、それでも誰か、責任ある立場の人間がどうにかできなかったのか・・・と考えてしまう。リアルな戦闘シーンに息をのんでいた息子に、その中の一人ひとりに名前があり、名付けた親がいて、一緒に過ごしたきょうだいや友達がいる、自分たちと変わらない普通の人間だということは、伝わっていたろうか。
久々に劇場で観た。いやこれは・・・すごく良かった。以前、NYでミュージカルを観たことがあったのだが、あの時は当然全部英語だったので細かい部分はまったくわからず。なのにラストのあのシーンで劇場全体の雰囲気に感応したのか涙が出て止まらなかった。二十年以上たった今、劇場内があれほど盛り上がっていた理由がやっとわかってスッキリ!(遅!)
しかしフランスでの「革命」と日本で60~70年代の学生運動が叫んでいた「革命」とは似ているようで全く非なるものとよくわかった。戦いの終わった朝、女達が学生たちの血で汚れた石畳を拭きながら、「小さい頃から知ってる、昨日まで一緒に過ごしたあの子たち」のために歌うシーンにはぐっときた。彼らのやり方が正しかったかどうかは別として、その覚悟と堂々とした生きざまには、素直に凄いと言わざるを得ない。日本の特攻隊も、本来こういう描き方をされるべきなのではと思う。結果は悲惨なものでも、本人たちは誇りと気概を以て戦ったのではないか?
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