10月に読んだ本
浅田さんらしく読みやすい、端正な文章だというのに、なんだか今回はとても辛かった。辛くて何度も読むのを中断した。登場人物一人一人がとても丁寧に、丹念に描かれている物語ではよくありがちなことだが、知り合いの話を読んでいるような気になってくる。今回厳然たる歴史的事実も頭にあり、読み進めていくほどに彼らの運命が眼前に迫ってきて、本当に辛かった。
日本の敗戦が決まった日、千島の小さな島占守島に攻め込んできたロシア軍を日本軍が見事撃退した、という史実を元に作られた物語だが、勇壮な戦いのシーンは皆無。この島にいる軍隊がどういう理由で止め置かれることになったのか、どういう事情で皆ここにいるのか、敗戦処理の役割をそれと知らずに担わされた翻訳家の老兵(といっても45歳だが)を軸に描いている。
今まさに平和な日本において「小さな島」をめぐって紛争が起こっているが、この時は軍人のみならず民間人も普通に持っていた「領土を取られることは命を取られることと同じ」「この島が取られれば、次は北海道だ」という共通認識というか危機感、一体どこにいってしまったのだろう。国というものが何か、きちんと教育してこなかった日本のツケが今いろんな形で出てきていると思う。戦争反対ーというのは簡単だが、なぜ戦争状態になってしまうのか、戦争になると何が起こるのか、やめようとするときに何が起こるのか、きっちり検証して子々孫々に教えていくべきことなんじゃないのか。
といろいろ真面目に考えてしまう本だったが、最後にちょっとずっこけた。いや、人によるかもしれないが、私はちょっと・・・うーん、これをラストに持ってきますか。まあ、そういう形もありだけど・・・うーん。気になる向きは読んでみて、私に感想をきかせてくださいな。
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