帚木 (八)
さすがにこもりっきりも体裁が悪くなってきたヒカル王子、久々に正妻の家(左大臣家)を訪問する。
妻の葵さんは、相変わらず高ビーな態度で全然打ち解けてくれない。
仕方ないから若いメイドさんたち(女房)をからかいつつその辺でゴロゴロしていると、舅がいそいそとやってくる。
社長(帝)の息子である自慢の婿ぎみ、あまりざっくばらんには出来ないし、その上娘とはなんとなくうまくいってないっぽいし、粗相があってはならん・・・・・・と余計なところまで気を遣いまくる舅。
くつろいだ格好のヒカルを人目にさらすまいと衝立を置き、風の通り道をふさいでしまった。
「風来ないじゃん、このあちーのに。気きかないオヤジだな」
と、こっちもワガママで高ビーな若いヒカルは聞こえないように言いつつふてくされ、周りのメイドさんたちはそれを見てくすくす笑う。
だが正妻の葵さんだけはノーリアクション。超キレイで物腰も優雅、教養もあるのに、ヒカルとはメイドさんを通してしか口をきかない。
ヒカルにしても、元々政略結婚、自分で選んだわけではないし、そっちがその気ならこっちもと意地になったりする。
なんだかんだでまだ子どもなのである。
夕暮れ。
「あらいやだ、今夜は天一神さんが、会社からこちらの辺りまでいらっしゃるから、方塞がりだわ」
とメイドさんたちが騒ぎ出す。
「ヒカル王子さま、お泊りの場所を変えたほうがよろしいですわ」
すっかりくつろいでいたヒカルはぶんむくれて
「マジ?面倒臭いなあ、その方向じゃ俺の家もダメってことじゃん。このままゴロゴロしてようと思ったのに」
と動こうとしない。
だがメイドさんたちは老いも若きもみんなして
「ダメですの! 場所変えなきゃですの!」
とまくしたてる。
「そうだ、中川のあたりにいいお屋敷がありますわよ。紀伊守と仰る方で、お庭に川の水を引き入れて涼しい木陰をつくってらっしゃいますの」
「おお、いいね。車のまま入れるかな」 (車とは当然、牛車である)
いきなり申しつけられた当の紀伊守はさあ大変である、
「はあ、あの、それはもちろんいらしていただくのは光栄なのですが、今、同僚の伊予守のところで忌み事がありまして、そこからも大挙して人が押し寄せてきてるんです。とても落ち着ける感じじゃありませんよ、はあ」
などと小さい声でぶつぶつ言う。
だがヒカル王子は逆にいろめきたつ。
「いーじゃん、それ♪ (女の子が)大勢いて楽しげで。そこいら辺に衝立(几帳)でも置いててくれれば、それでいいよ」
「そ、そうですか・・・(んなわけにいきますかいな戦々恐々)」
ヒカル王子はwktkしつつ、舅に知られるとまた大げさなことになるので、こっそりお忍びで屋敷を出る。
突然超のつくVIPを迎えることになった紀伊守の家では準備におおわらわ、庭に面した東側の部屋を大急ぎで掃除して、衝立(几帳)やら何やらで周りの部屋との境界を作るが、急場しのぎの感は否めない。
世知にたけたメイドさんたちの口コミ通り、庭は遣り水も涼しげに、田舎風の柴の垣、前栽もよく手入れされている。 風通しもよく、虫の声がそこはかとなく聞こえ、蛍が飛び交い、趣のあるいい感じだ。
ヒカルのお供をしてきた人たちも一緒に、オープンバルコニー(渡殿)の下から湧き出る泉を見ながら酒を飲む。
家の主である紀伊守は酒や肴の用意にてんてこ舞い。
ヒカルはゆったりくつろぎながら、あのとき話に出た「中の品」というのはこういうところに住む女性を言うのかなあなどと思っている。
……
「う、右近ちゃん!」
「なあに侍従ちゃん」
「ま、まさか王子……」
「ほんとメーワクよねえ、急な方違えってさあ」
「そ、そんなことじゃなくて!」
「ほほほ♪」
「まさか!」
「やあね、侍従ちゃん。落ち着きなさいよ。まああんな話の後ですものね、お若い王子さまは影響もされやすいというものよ」
「いやーんありえないー!アタシの王子さまがどんどんヨゴレの途にっ」
「大げさねえ。ちょいワル、くらいでしょせいぜい」
「えーん!」
<帚木(九)につづくっ>
参考HP「源氏物語の世界」
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