短編小説:穴が開いた(2)
月日は流れ、小さな村は隣の大きな町と合併することになった。広く便利な道路が沢山作られ、車や人の往来は格段に増えた。かつて町に向かう最短ルートであった鉄蓋付きの道は、歩く人もほとんどいなくなった。蓋の周りには丈高い草が生え放題、整備を施されなくなった路面はデコボコに波打った。
ある日小さな男の子が行方不明になった。右手の甲に、生まれつき大きな十字型の痣がある子だった。近所中くまなく探したが見つからない。男の子の祖母によると、前の日に散歩に出かけた折、あの鉄蓋の下にある穴の話をしたという。男の子は大変興味を持ったようで、帰ってからも何度も同じ話をせがんだ。男の子の父親と母親は件の道路に走った。男の子の姿はない。草を掻き分け、蓋の近くに寄ると、ボルトが錆びて外れている。蓋はごくわずかだが、開いていた。新月の翌々日の月のように。ちょうど子どもの体の幅くらいだ、と父親が思うのと同時に母親が切り裂くような悲鳴を上げた。見ると草むらに男の子の履いていた靴が片方だけ落ちていた。
町は大騒ぎになった。警察や消防の車が寂れた道路に殺到した。厚い鉄の蓋は重くて容易に動かせない。誰がどうやって開けたのか、いくら錆びてもボルトがあんなふうに外れることはあり得ない、特殊な道具なしでは絶対に不可能だ、と鍛冶屋を廃業し隠居した老人が震えながら呟いた。
数時間かけて、やっと大人が二、三人ほど入れる隙間を開けた。だが誰も中に入ろうとしない。かつての村長も、蓋の上を悠々と通ってみせた大工も、とうにこの世を去っていた。母親は髪を振り乱し男どもを押しのけ、半狂乱になりながら自分の体に太縄を結びつけ、さあ下ろせと叫んだ。止める夫の手を振り切った彼女の足が穴の縁にかかったその時、おーいと声がした。薄暮の中、男の子が走ってくる。その手には大きな十字型の痣があった。再会した三人は大きな声でわんわんと泣き出した。周囲から安堵と感動の拍手が沸いた。
皆が安心して解散しかけたとき、祖母が男の子の両手を握り静かに、何処へ行っていたのかと聞いた。男の子は俯き、もじもじしながら、穴の中だとこたえた。一度穴に落ちたのだが、気がつくと原っぱの真ん中にいた、母親らしき声がしたので近づいてきたのだという。
その話は一夜にして国中に広まった。穴と蓋との隙間は奇跡の証拠として閉じられずそのままにされた。人々は寂れた道路に続々と集い、危険を避けるため周りに張り巡らされた柵は、願い事を書いた紙や板で埋まった。地元では、この騒ぎを苦々しく思う者も少なくなかったが、余所者の落としていく金が馬鹿にならないのも事実で、表立って文句を言うことはなかった。
(3)に続く
ああ、やっぱ読んでしまったあ!
返信削除十字架ですよ!
きたきた!
しかも穴に落ちたはずなのに
戻ってくる!
なんかある!
穴ですからね~。
なんかやるでしょ?
おさかさん、あなたはヤル人だ。
淡々と書いてるけど、おさかさんの頭の中では
ギャンギャンしてるでしょ?
くっそー!
どうなる?!
穴!
あははは(汗)
返信削除期待しすぎだっちゅうの!
今日中に続きアップしやす♪
底知れない巨大な穴・・・
返信削除鉄の封印・・・
子供の消失、そして再生・・・
一体この穴はどんな不思議な存在なのか?
どんなパワーを秘めているのか?
・・・期待がつのりますねぇ!
矢菱虎菱さん
返信削除あははは(大汗)。
期待持たせ杉なんですね(滝汗)。