文學界特別賞・合原壮一朗「狭い庭」について
作者は高校三年生の男子。特にストーリーらしいストーリーはなく、作者と等身大と思われる主人公の日常の脳内探検といった趣の作品。
新人賞を獲った「ディヴィジョン」とは対照的に、真っ正面からの自分語り、こういう文章を照れもなくすぱーんとかけるのはこの年齢がぎりぎりかもしれない。特別賞を与えたお二人も「これからどう、とかいうのはとりあえず問題にせず、今、世に出しておくのもいいと思った」と異口同音に仰っている。
内容はかなりの不思議ちゃんだが、文章自体には破たんがなく、几帳面だ。何もそこまで丁寧に書かなくてもと思うほどきっちりしている。しかもその調子が最初から最後まで一定で、むらがない。そういうフラットな文体だからこそ、中身が引き立つというか、すくなくとも読み切らせる力になっていると思う。「単なる独り言」ではないのは確かだ。ただ、これが例えば短編集だったとして、全部こういう調子だったら、ちとキツイ。
この作者が次にどういう作品を書くのか、書こうと思っているのかは、この作品からはまったく予想できない。つまりは、現在のところでは「一発芸」なのである。これを乗り越えて、さらなる新天地に向かえるか、はたまた小説ではない、別の表現方法を見つけるか、または全然関係ない道に進むかはわからないが、もし作家の道に進むなら、一年か二年、ある程度の時間をおいてから新作にかかったほうがよさそうな気はする。
この先どうなるか予測のつかない点で、とても興味深い書き手と言えるだろう。
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