2017年3月22日水曜日

末摘花 七(ひとり語りby侍従♪)

今更なんだけど、このお話って実はけっこうスパンが長いのよね。長いことウダウダやってた割には進展ないままズルズル来ちゃったって感じ? 特に、紫ちゃん奪還(つうか誘拐)作戦前後はそれこそ正妻さんはおろかあの六条の御方さまさえ疎遠にしてたくらいだから、推して知るべしってもんよね。ふっるいボロ屋敷で趣も何もない、女房も年寄りばっか、当の本人も超絶引きこもり体質&無反応でやり取りを楽しむなんて夢のまた夢、マメに通おうがほっとこうが何をどうやっても無駄無駄無駄ア!て感じだから面倒臭さの方が先に立ってなんとなーく足が遠のいちゃった。
フツーの男ならこれでもう自然消滅、てなるんだけど、そこはヒカル王子よ。ま、ぶっちゃけヒマになって刺激が欲しくなったわけね。

「もしかしてもしかすると、よーく間近で見てみたらちょっとは可愛いとことか、あるかも? 何しろいっつもここまで暗くする?! てくらい真っ暗闇だし、手探りの感触だけじゃあワケわかめ…せっかくだから見るだけ見てみちゃう?」

なーんて思い立ってからの王子の行動は速い。誰しも気が緩む夕飯あとのまったりタイムに、そーっと常陸宮のお邸に入って、格子の蔭から覗いてみた。

が、当然ながら深窓の姫君がそんな端近にいるわきゃない。几帳とか超ボロッボロなんだけど、定位置に置きっぱだから完全目隠しされてて、かろうじて女房さん達四、五人が座ってるのが見えるだけ。お膳や青磁らしき食器は由緒正しきインポートものだけど、まーとにかく古臭くてダッサい上に、とても御馳走とは言えないショボイ料理を、仕事上がりの女房さん達がモソモソ食べてる。
部屋の隅っこには、元は白かったんだろうけどグレーに煤けちゃった着物に、薄汚れた褶をまとったお婆ちゃんたちが寒い寒いっていいながらハムスターみたいに固まってる。ハムスターほど可愛くない上に、その髪型ね…額の辺りに櫛なんか挿しちゃって、しかもそれが落ちかかってるわけ。舞や楽器を教える先生とか、修道院みたいなとこに籠ってる年寄りとか、ようは浮世離れした人? て感じで、普段の王子の生活圏じゃまずお目にかかれないような人種なわけ。落ちぶれたとはいえ、いやしくも宮家でのお側仕えだっていうのに…いや、だからこそなのかな? 昔風のまま時が止まってる感じ?

「今年はなんて寒い年なのでしょうかねえ。うっかり長生きしたばっかりにこんな目に遭うなんて…シクシク」
「故・宮様が生きていらしたころ、何が辛いと思っていたんでしょう? こんなよるべない生活よりずっとマシだったのに…」
なんて、大げさにガックンガックン震えながら延々続く愚痴ぐちぐちぐち…。さすがにウザすぎるんで、王子、そーっと離れて、今きました!的な感じで家来に戸を叩かせる。

ヒカル王子さまがいらした! いらしたわ!

とばかりに女房さんたち色めき立って、火の向きを変えたり格子を外したりバタバタお迎えの準備。
え? 私? 実は、このときは不在で…ゼーンブ伝聞なの。本業が忙しくって…え? やだぁ私だって働くときは働きますよぉ、一応。若くて美人で有能な平安キャリア女房って、あちこちで引っ張りだこなんだからねっ! ホントなんだからっ!

…てことで、この日は特に、色々ズレたお年寄りばっかだったもんだから、王子からしたらますます勝手が違ってやりにくかったみたい。その上空模様は悪くなる一方で、雪はどんどん降ってくるわ風が吹き荒れるわで、明りもいつのまにか消えちゃってるのに点し直す人すらいない。暗い、ふるーいボロ屋敷で夜を過すってシチュエーション、どっかで聞いたような…そうそう、夕顔のお方のお話ね…ぶるる。あの時より邸は狭いし、いつもはそれなりに人が沢山いたから今まで気にしてなかったんだけど……さすがの王子もぞくぞくしてあんまり眠れなかったみたい。

(そうはいってもこういう荒れた天気の夜って何かイイよね。いつもと全然違う感じでワクワクする。だけど…ねえ)…溜息。

フツーの女子だったらさあ、ヒカル王子と嵐の夜…なんて夢のようなシチュエーションじゃん? 風の音が怖くて眠れないの、手を握ってて?(うるうる)大丈夫だよ僕がついてる、さあもっとこっちにお寄り(はあと)
♪あーだから今夜だけはー君を抱いていたい♪あー明日の今頃はー僕は牛車のなかー♪とか口ずさんじゃったりしてさあ……
あああああ! 何なの一体! ちょーもったいない! コミュ障も大概にしなさいよってんだ!

「侍従ちゃん落ち着いて、音が割れる。てか歌が古すぎ。年がバレるわよ?」

……大変失礼いたしました。

というわけで、夜はしんしんと更けていくのでした。

>>「末摘花 八」につづく
参考HP「源氏物語の世界

2017年3月8日水曜日

末摘花 六(ひとり語りby侍従)

さて、いろいろと腑に落ちない夜を過ごしたヒカル王子、二条院に帰ってゴロンと寝転がったものの眠れない。
んー何か思ってたのと違う・・・なかなかこれぞ! て人はいないもんだなー」なんて自己チューなことを言いつつ
かといって、あ、もういいですじゃサヨナラなんてテキトーに扱っていい身分の姫君じゃないし・・・あーどうしよ
思い悩んでるところに頭中将、登場(それにしてもやたら絡んでくるわねーストーカーちっくよね)。
「珍しいですねえ、こんな遅くまで朝寝なさるなんて。あやしいなあ。どうせ女でしょ! わかってんですよ!」
などと耳元でウルサイので王子しぶしぶ起き上がる。
まさか、気楽な独り寝でつい寝過ごしちゃったんですよ。頭中将は、内裏からの帰りです?」
そうそう、今退出してきたばっかり。今度の朱雀院の行幸の件でね、今日演奏者と舞い手を決定するよ! って昨夜お知らせが来たんで、父の左大臣にもお伝えしなきゃってことで。またすぐ戻らなきゃいけないんですけど
なるほど、そういうことなら私もご一緒しますよ
 王子が用意させた朝ごはんを二人で食べ、ひとつ車に乗り込む。車中でも頭の中将ウルサイ。
まだ眠そうですねえ。ふーーーん。何故、おひとり様で夜更かしなさったんですかねえ。まあ言いたくないんならいいですけどー、隠し事多いですよねー
ゲスい顔でぶつぶつ言う。超ウザい。
とはいえその日はなんやかんやで決めること多くて、一日中内裏に籠りっぱなしでお仕事ざんまい(ま、たまにはね)。

というわけで朝に届くはずの後朝の文、が夕方遅くに姫君邸に届けられたわけなんだけど。

夕霧が晴れる気配もまだ見られないうちに
 さらに気持ちを滅入らせる宵の雨まで降っています

いやー忘れてたわけじゃないんだよ! 普通、初めてのお泊りデートの翌朝は早めにお文をお届け&夜に再訪っていう平安恋愛ルール、まさかこの僕が知らないわけないじゃん? 超気になってたんだけどさー、ほら朝から頭中将迎えに来ちゃうし! 内裏にいったら会議会議で時間ないし! 無理だったわけ! しかも、やっと終わったと思ったら雨まで降ってきちゃってテンションダダ下がり~て感じ? だから・・・ね? メンゴメンゴ!

 さすがの大輔命婦さんも能面よー(怖)。つまり今夜はいらっしゃらないってことね・・・と察した女房さん達も凹みつつ、
「でもでも、お返事は差し上げないと!」
って言うんだけど、姫君はあの通りの人だからさ、テンパっちゃってテンプレ返歌すら思いつかないのよ。もうこうなったら仕方ない、
「夜中になっちゃいますよ、早く!」
 脇に座り込んで口述筆記よ。まあ夏休み終了直前プリプリしながら子供にムリヤリ作文書かせる母親的な?

晴れぬ夜の月を待っている里を思いやってください
 私と同じ心で眺めてはいないでしょうけど

 ちょっとーいくらなんでも酷くなーい? いい加減にしないとこっちだって考えがあるわよ?

ってちょい攻撃的ニュアンスでいってみた。んだけど、姫君ったら中々筆が進まない。周りの女房さんたちも一緒になってガンガン煽って責め立ててやっとこせ・・・しかも紙が・・・いや元は高級なんだろうけどさ・・・色は高貴な紫だし・・・だけどふっるーい、謎の粉? みたいなのでざらついてて。字がまた、なんていうかその、金釘流っての? やたらくっきりはっきりしてて天地がきっちり揃った、古文書?!て感じの字体なわけ。

 さすがの百戦錬磨王子もこれにはウッとなって、じっくり見なおす気も起きない。
なんだろこのやっちゃった感・・・こういうのが、後悔するって気持ちなのかな(今までしてなかったんかい)。だけどもうどうしようもないよねーやることやっちゃったんだし。何はさておき、一応責任は取らないと。気長に最後まで面倒みるか・・・
 なんだかんだでお育ちは良い王子、ボロぞうきんのように捨てようとかバックレようとか、そういう悪意はまったく無い。無いんだけど、だからこそ問題なのよね。本人悪いことしてる気ないんだもん。
 行幸を控えて、毎晩のように舅の左大臣に引っ張られ、屋敷の若い衆と一緒にやれ楽器の練習だのやれ段取りの説明だのやらされて、自分の準備もしなきゃならないし超忙しかったのは事実みたい。とはいえ本命に近い辺りには暇を見つけて通ってたみたいだから、ようは姫君の優先順位はすっごーーーーく下、ってこと。ナチュラルにスルーされてたわけ。ザンコクな話よね。

さて秋も暮れ、一大イベント・行幸の日も近くなりあちこちで試演たけなわの頃、王子のもとに大輔命婦さんがやって来た。
あー、元気? どうしてた?」
 ヒカル王子、内心やべーと思いつつもフツーに話しかける。命婦さん、問われるまま最近の姫君の様子をつらつら話す。
このところお忙しいのは承知しておりますが・・・このように、見限られてる感満々なこと、お側仕えの方たちまで、はっきり口に出すわけではないけれど気に病まれているのはよくわかるんですの。もう私、お気の毒で・・・心苦しくて・・・たまらないですわ
って、涙目よ。あの! 女子力最強フェロモン全開の命婦さんがよ? 目うるうるさせて切々と訴えるのに、抗える男なんてこの世にいないわよ。さすがのヒカル王子も罪悪感にかられたか、
奥ゆかしい姫君(はあと)なんて妄想してる段階でやめときゃよかったんだよなー。なのに変な意地で突っ込んでって彼女たちの世界をぶち壊しちゃった。ヒデー奴とか思われてんだろうな
とちょっとだけ反省。が、一分ともたず、
(いや待てよ? あの姫君のことだ、きっと愚痴をいうこともなくだんまりで、相変わらずひきこもり生活してんじゃね?)
と思い直す王子。
本当にメチャクチャ忙しかったから! 仕方ないよ命婦」
とわざとらしく溜息をつきつつ、
姫君のほうこそ、私が何をしても知ったこっちゃないって態度だったじゃん。そういうご気性を少々懲らしめて差し上げても罰は当たらなくない?」
などとうそぶき、これまた超絶イケメンキラキラオーラ全開で微笑む。さすがの命婦さんも
仕方ないわね・・・ヒカル王子を恨む人は多いだろうけど、勝てる人はそうそういない。他人の気持ち? そんなんわかるわけないしー、わかろうとも思わないしー、俺は俺の好きなようにやるぜ! てやり方、嫌いじゃない。ただしイケメンに限るけど
って苦笑いするしかなかったって。

とはいえ行幸が終わった後は、またボチボチと姫君のもとに通うようにはなったみたい。よかったよかった。・・・のかな?たぶん。

>>「末摘花 七」につづく
参考HP「源氏物語の世界

2017年3月4日土曜日

一・二月に読んだ本

例によって更新滞りまくり。忘れないうちに殴り書き。

「邪悪」上下 パトリシア・コーンウェル

元システム系の職場にいた作者が時々、ITがらみの新しい犯罪パターンを紹介?してくれるこのシリーズ、今回は犯罪者や犯罪の内容そのものを消したり改ざんするデータフィクション。そもそもネットやマシンにデータをのせて誰かとやりとりするかぎり、そういったリスクからは逃れられない。どんなにセキュリティをきつくしても、結局管理する立場の人間は必要で、やろうと思えば何でもできる。つまりどんなに技術が進んでも、最終的には人間の善意に頼るしかないのだ。そこに巧妙な悪意が入り込めばどうなる? 見かけ上、システム的には何の問題もなく、侵入した形跡も、改ざんした痕跡や履歴もなかったら誰がどうやって気づく? 誤りと知らずに物事が進行してしまい後戻りできなくなったら?そういう状況をさらに利用する輩が出たら?
物語としては眠っていたラスボス的な人物がまた登場、これまでのいろいろもそいつのせいで、今後もいろいろやってくること確定というところで終わり、次回に続く。すっきり解決♪では全くない。加えて今回の殺人についての謎もあまり解明されていないし非常にモヤモヤ感残る。んーこの辺のトリック最近なおざりじゃないの? と文句いいつつも、続刊出たら買っちゃうんだろうなあ。それにしてもこのところのスカーペッタがどんどん病んできているのが心配。スカーペッタはじめルーシーにしてもマリーノにしてもベントンにしても、皆もう少し楽に生きたらいいのに、と思ってしまう。まあそうならないからこそ続いているシリーズなんだろうけど。

「子供を殺してください」という親たち 押川 剛

なかなかハードなタイトルだが、中身はもっとハード。精神障碍者移送サービスをはじめ、自立・更生支援施設を立ち上げた著者が、綺麗ごと抜きの現実を突きつける。
このタイトルに込められているのは、問題を抱えた子供と暮らすことに疲れ果て、万策尽きて追いつめられた家族に寄りそう気持ちと、子供がどんなに酷い状態にあっても最終的に責任をとるのは親しかいない、という冷徹な正論。
私は子供の育て方を語れるほどいい親ではないが、ひとついえるのは、過干渉は最悪だということ。ネグレクトの場合、比較的外から問題が見えやすいことが多いが(食べていない、服装が薄汚れている等)、こちらはともすると単なる教育熱心な親と解釈され、子供が第三者に窮状を訴えても「あなたのことが心配だからうるさく言うのよ。いい親御さんじゃない」などと的外れに諭されて終了となりそう。逃げ場もなく、過剰に(暴力的に)抑圧された人格は歪み、成長を阻害する。これは別に親でなくとも、教師や上司など本人より上の、指導者的立場にある人は皆、子供を抑えつけ過ぎていないか・自分の望みや価値観を知らず知らず押し付け誘導しようとしていないか、常々気を配るべきだと思う。自戒もこめて。

「殺人犯はそこにいる」隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件 
清水潔

話題のX文庫。やはり表紙が目立ったことと中身も面白そうだったので購入。解説の方が「調査報道のバイブル」と評していたが言い得て妙。
冤罪が晴れるまでのいきさつが大半を占めるが、本題はまさに表題の通りでかなり怖い。幼女ばかり何人も誘拐しては殺している真犯人が、ほぼ特定されているにも関わらず、逮捕も拘留も観察もされないまま普通に生活している。つまり野放しということだ。
「邪悪」で取り上げていたデータフィクションに構図は似ている。こちらは誰かの陰謀とか故意ではないにせよ、「誤った科学的データ」を根拠に動いてしまい、重大な冤罪を生んだ。スタート地点がそもそも間違っているため、遡って正していこうにも影響を及ぼす範囲が広すぎてどうにも手の出しようがなくなっている。
これ、現実としてどうするのだろう? ここまで調査して、本に書いて、世間に知らしめて、その先は?具体的にどうしたらいいのかわからないのがもどかしい。
少なくとも、ただ穏便にとか波風立てずにとか、そういう上っ面だけを取り繕うのではなく、おかしいことはおかしいと毅然といえる人間になりたいものだ。